第12回 体験の販売/フラット料金

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バイキング

体験の販売(Experience Selling)

「ブランディング講座」でも述べたように、昨今、ビジネスの趨勢は急速に「モノ」から「コト」を売る方向へとシフトしてきています。たとえ販売するものが物理的実体を持つ製品であるとしても、そこに付随的なサービスを追加し、ブランドとしての価値を向上させることが求められているのです。それをガスマンらは「体験の販売」のビジネスモデルと呼んでいます。

付随的なサービスの具体例としては、日本でも蔦屋書店が近年行っているような喫茶エリアの併設、著名人のサイン会、ワークショップなどが考えられます。もちろん、販売促進や店舗デザインなど、顧客の体験に影響する全ての事業活動を有効に協調させ、顧客がどの店舗でも均質な体験を得られるような仕組みを整えることが重要になります。

このモデルが機能しているとき、顧客が得るのは既存の競合製品と変わり映えしない一つのモノではなく、その物理的機能にとどまらない包括的な経験となります。この工夫を通じて、顧客から企業へのロイヤルティ(忠誠心)が高まり、より多くの商品がより高い価格で購入されるようになります。

マジック・トライアングルに当てはめると、「何を売るのか(What?)」「製品やサービスをどのように提供するか(How?)」そして「なぜ儲かるのか(Why?)」の三つを変革するモデルということになります。

このモデルの歴史と活用事例

「体験の販売」がビジネスシーンで重要視されるようになったのは、比較的最近の1960~1980年代のことです。

米国のオートバイメーカーであるハーレーダビッドソン社は、1969年の映画『イージーライダー』(原題同じ)を通じて、ハーレーダビッドソンのバイクを自由の象徴として人々に認識させしめることに成功しました。フィリップモリス社の煙草ブランド「マルボロ」や、アンティーク家具のレプリカの販売で知られるレストレーション・ハードウェア社(いずれも米国)も、前者はメディア、後者は店舗を通じて、「体験の販売」モデルを有効に活用した事例です。

このモデルの近年の活用例として思い浮かぶのは、なんといっても米国発のコーヒーチェーン、スターバックスでしょう。顧客はコーヒーを求めてスターバックスに来るのではなく、くつろぎの雰囲気や、オシャレな自分に浸れるという付加価値を求めて店舗を繰り返し訪れるのです。

「体験の販売」をどう活かすか?

「体験の販売」モデルの活用は、顧客の心を掴むための重要な一歩となります。競合他社を出し抜く、あるいは出し抜かれないように防衛戦を張るためには、今や、製品だけではないトータルの体験を提供することで顧客との絆を深めることが必要不可欠なのです。このあたりの話は「ブランディング講座」にも通じる部分が大きいですので、よろしければそちらも併せてご覧下さい。

このモデルを自社ビジネスで活かすにあたっては、自社のブランドの意味を正しく反映した顧客体験を創り出す方法、そして顧客からの好意的な感情を実際の受注に結び付けられる方法を模索していく必要があるでしょう。

フラット料金(Flat Rate)

「フラット料金」のビジネスモデルとは、平たく言えば「定額使い放題」ということです。

顧客は定額料金を支払い、製品やサービスを好きなだけ利用することができます。顧客の中には、通常料金の範囲を超えて製品やサービスを利用する人と、あまり利用しない人がおり、このバランスが釣り合っていれば企業は利益を上げることができます。

マジック・トライアングルに当てはめると、「何を売るのか(What?)」「なぜ儲かるのか(Why?)」の二つを変革するモデルということになります。

このモデルの歴史と活用事例

このビジネスモデルからまず思い浮かぶのは、食べ放題形式の飲食店でしょう。その元祖はラスベガスで1950年代に誕生した「バッカルー・ビュッフェ」であるといいます。現代まで根強い人気を誇る食べ放題という商業形態は、人間の食べられる量には限界があるという事実を前提として、顧客の大半が「もとを取れない」料金を設定することで利益を上げています。

運輸や旅行の業界でもこのモデルは広く用いられています。スイス連邦鉄道が1898年に導入した「年間シーズンチケット」は、一世紀以上を経た今でも、顧客に利便をもたらすとともに一種のステータスシンボルとして機能しています。また、カリブ海に浮かぶジャマイカで1981年に誕生したホテル「サンダルス・リゾーツ」は、飲食などが宿泊料金に全て含まれた「オール・インクルーシブ(全て込み)」のモデルを採用したことで人気を集めました。

IT時代に突入してからは、このモデルは携帯電話やインターネットの通信料とも高い親和性を見せています。こんにち、定額使い放題プラン以外でスマートフォンを利用している人などいるでしょうか。

第3回の記事で、「サブスクリプション」のビジネスモデルの活用例として紹介したネクスト・イシュー・メディア社の雑誌読み放題サービスもまた、同時にフラット料金モデルの活用例でもあるわけです。

フラット料金をどう活かすか?

ガスマンらは、フラット料金モデルが有効に機能する条件として次の三つを挙げています。第一に、コストが手に負える範囲であること。第二に、使えば使うほど、顧客にとっての有用性(さらに使い続けたいという欲求)が低下していくような性質のサービスであること。食事はこの最もわかりやすい例といえます。第三に、自社にとって、都度課金するよりもフラット料金制のほうがコスト効率がよくなること。この三つの内のどれか一つにでも当てはまるなら、このモデルを採用する価値はあるといえます。

このモデルの利用を考える上では、顧客の平均消費量を見極め、マージンの範囲内に収まるように価格の調整を図るとともに、サービスの乱用を防ぐ手立てにも思考を巡らせなければなりません。また、「価格による差別化」という潜在的なブランド資産を放棄し、利益を減らすリスクを飲んででも、市場シェアを広げるメリットがあるのかを考える必要もあるでしょう。