第8回 キャッシュマシン/クロスセル

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モデル6. キャッシュマシン(Cash Machine)

 「キャッシュマシン」のビジネスモデルは、現金の支出と回収の時間差を示す「キャッシュ変換サイクル」を逆転して事業を運営するというものです。ガスマンらによれば、キャッシュ変換サイクルは以下の公式で定義されます。

  キャッシュ変換サイクル=在庫回転日数+売掛債権回転日数-仕入債務回転日数

 一般的な商売では、先に現金を支出して仕入れを行い、それから顧客に商品を販売して収入が発生します。ところが、キャッシュマシンのモデルでは、これを逆転させ、顧客からの収入を得たあとに仕入れの支出タイミングが来るように調整するのです。これにより、手元の資金流動性を高めることができ、負債の支払いや新規投資など様々な目的に資金を利用することが可能になります。

 マジック・トライアングルで言えば、「製品やサービスをどのように提供するか(How?)」「なぜ儲かるのか(Why?)」の2つを変革するモデルということになります。

このモデルの歴史と活用事例

 収入と支出のタイミングを逆転させるという発想は古くからあります。例えば、銀行の小切手というものは、銀行から見れば、収入と支出のタイミングの逆転によってメリットを得るためのシステムにほかなりません。19世紀の終わりにアメリカン・エキスプレス社(アメックス)が生み出したトラベラーズチェックも、この発想にのっとっています。

 現在では、「アドオン」のビジネスモデルの記事でも取り上げたコンピュータメーカーのデル社が、このモデルを有効活用したケースとして知られています。同社が顧客の好みに応じた受注生産をメインとしていることは既に述べたとおりですが、受注生産であるがゆえに事前に在庫を抱える必要がなく、顧客からの収入タイミングを仕入れの支出タイミングよりも先に置くことができるのです。

 また、世界最大のオンライン小売事業者であるアマゾンも、在庫の回転を非常に速くする工夫と、巨大な購買力を背景にした仕入先への支払条件の交渉により、マイナス14日間というキャッシュ変換サイクルを実現しています。

キャッシュマシンをどう活かすか?

 キャッシュマシンのモデルの導入可否は、仕入先への支払タイミングを顧客からの入金後に置くことができるかどうかに懸かっています。したがって、仕入先と契約条件の交渉ができるか、また顧客からの支払を受けるまで製品やサービスの完成を遅らせることができるか、などを考える必要があります。

 デル社の事例のように、顧客から高い評価を得られる受注生産のプロセスを構築できる事業を行うのであれば、ぜひキャッシュマシンの考え方を念頭に置くべきでしょう。

モデル7. クロスセル(Cross-selling)

 「クロスセル」のビジネスモデルは、既存顧客との関係性や、自社の既存リソースを利用して、基本の製品やサービス以外の補完的なものを追加で販売するというものです。日本語訳では「一石二鳥」という説明が当てられています。

 顧客側の利点は、多くの製品やサービスの調達先を一つにまとめることができる点です。また、同一の取引先と継続的に付き合うことが、双方に安心感というメリットをもたらすことは言うまでもありません。

このモデルの歴史と活用事例

 クロスセルの起源は古代中東のバザールにまで遡ることができますが、現代での活用事例としては、石油産業のシェル社(もとは英国の企業。現在はオランダのロイヤル・ダッチ社と合併してロイヤル・ダッチ・シェル社)が有名です。同社は、自社のガソリンスタンド網を利用し、給油と直接の関係はない食料品や日用品をガソリンスタンドで販売しています。給油に訪れた顧客がそれらの商品を購入してくれ、またそれらの商品を取り扱っているがゆえに他社のガソリンスタンドよりも選ばれるようになるという正のスパイラルが機能しているのです。

 日本でも人気の高い、スウェーデンの家具小売業者のイケアも、家具のほかに内装用品の販売や店舗内レストラン、レンタカーなど、多岐にわたるサービスを提供するクロスセルモデルを採用しています。

クロスセルをどう活かすか?

 クロスセルのモデルは、利益率の高いメイン商品・サービスと、シンプルで薄利なその他の商品・サービスを組み合わせるというものです。これを自社ビジネスに取り入れるなら、メインとその他の組み合わせが顧客にメリットを提供できるかどうか、その組み合わせに相当のニーズがあるかなどを考える必要があります。また、潜在競合の参入に対し、十分な参入障壁を作って防御を固めておけるかという点も重要です。

 一般に、クロスセルを活かせるジャンルは消費財が多いと考えられますが、ガスマンらは、専門特化したBtoBの分野への適用も示唆しています。