第3回 創造的模倣によるイノベーション

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万人が利用できるナビゲーター

 前回「マジック・トライアングル」でその一端をご覧頂いたように、ガスマンらの考案した「ビジネスモデル・ナビゲーター」は、従来は一握りの天才や一部の大企業だけの特権と思われていたビジネスモデル・イノベーションの仕組みを工学的に分析し、その知見を万人が利用できるようにしたものです。

 ガスマンらは、「ビジネスモデル・ナビゲーターを使えば、どの企業でも業界の常識を打ち破りビジネスモデルを革新できる」と言い切っています。また、組織の形態や業種、企業のあり方などに関わらず、いかなるビジネス主体であってもその恩恵を受けられるというのもビジネスモデル・ナビゲーターの長所です。中小企業の経営者の方や、これから起業を考えている方にも頼りになるツールです。

イノベーションは既存パターンの組み合わせ

 ガスマンらの研究によれば、ビジネスモデル・イノベーションの成功例の約9割は、既存のビジネスモデル要素の組み合わせによって成し遂げられたものだといいます。天才ならぬ身の我々が注目すべきはその9割の方であることは言うまでもありません。

 ガスマンらは、過去50年に世界で成功を収めてきた主要なビジネスモデルを分析し、その核となる55種類のモデルを炙り出しました。この55種類のモデルを「創造的に模倣」することができれば、企業の規模や業態にかかわらず、誰もが業界のイノベーションリーダーになることができるというのが彼らの主張です。

 ただし、単にモデルを真似すればいいというのではありません。成功パターンの構造を理解し、変換し、再構成することがイノベーションには必要不可欠です。

 以下、55種のモデルの中から「サブスクリプション」と「サプライ品モデル」という2つのパターンを取り上げ、ガスマンらが説く「創造的な模倣」の意義を確認してみましょう。

サブスクリプション

 55のモデルの一つである「サブスクリプション」は、顧客が月額や年額の料金を支払うことで製品やサービスを利用できるというビジネスモデルです。英語の「subscription」には「購読」や「会費」といった意味があるので、そのイメージで捉えれば分かりやすいかもしれません。「マジック・トライアングル」でいえば、このモデルは「Why?(なぜ儲かるのか)」と「What?(何を売るのか)」の二点を刷新するものです。

 サブスクリプションは新しいビジネスモデルというわけではなく、かなり昔からありふれた商売の形であるといえます。しかし、こうした当たり前のモデルであっても、技術革新や社会の変化によって生じた新たな状況に上手く適用することができれば、劇的なイノベーションを起こすことができます。

 例えば、サブスクリプションのモデルをソフトウェア業界に適用したのがセールスフォース社の事例です。それまでソフトウェアのライセンスは一括販売(一度購入したらずっと使える)が当然でしたが、同社はソフトウェア業界で初めてライセンスの期間契約サービスを提供し、業界に変革をもたらしました。「ソフトウェアのライセンス販売」という従来からのビジネスに、「サブスクリプション」という古くからのモデルを上手く組み合わせることで、ビジネスモデル・イノベーションを実現したのです。

 また、ネクスト・イシュー・メディア社は、顧客が15ドルの月額料金を支払うことで、様々な分野の雑誌70種類以上が読み放題になるというサービスを提供しています。これもまた、電子書籍という新しい技術に、「サブスクリプション」のモデルを掛け合わせてイノベーションを起こしたケースといえます。

 ガスマンらの挙げている例の他にも、「Amazonプライム」に代表される定額見放題の動画配信サービスなどもこのビジネスモデルの好例といえるでしょう。

サプライ品モデル

 55のモデルの一つ「サプライ品モデル」は、本体製品を低価格や無償で提供し、それと組み合わせて使う消耗品(サプライ品)を高価格で販売することで利益を上げるというビジネスモデルです。本書の日本語版では「サプライ品モデル」と訳されていますが、ガスマンらが英語で付けたモデル名は「Razor and Blade」、つまり「カミソリと替刃」です。「What?(何を売るのか)」「Why?(なぜ儲かるのか)」に加え、特許や強力なブランド構築で他社製品への乗り換えを防ぐという形で「How?(どのように商品を提供するのか)」の部分も刷新されています。

 古典的な成功例としては、安価なランプと高価な燃料を販売したスタンダード石油社のビジネスモデルや、カミソリ本体を無料で提供して高価な替刃を販売したジレット社のビジネスモデルが有名です。このパターンをパソコンのプリンターに転用できると気付いたのがヒューレット・パッカード社でした。プリンター本体を低価格で販売し、高価なインクカートリッジで利益を上げるという同社のビジネスモデルは、今日ではプリンター業界の常識となっています。

 また、ガスマンらが「現時点で世界最大のイノベーター」と評するアップル社は、大胆にもこのモデルを逆転させることを思いつきました。同社のビジネスモデルは、iPodやiPhoneに入れる楽曲や電子書籍を低価格で配信し、肝心のiPodやiPhoneを高価格で販売するというものです。同社の2010年度の売上は、楽曲・ソフトウェア・電子書籍などの販売額5億ドルに対し、iPhoneなどのハードウェアの販売額は60倍の300億ドルにも上るとのことです。