第1回 ビジネスモデル・イノベーションの意義

    Posted in: ビジネスモデル革新

Longboarder at Sunset

ビジネスモデル・イノベーション

 グローバル化やネット技術の革新などの社会の変化に伴って、企業のビジネスの在り方も大きく変わりつつあります。これまでになかった商品やサービスで成功を収める企業が次々と出てきている今、歴史ある企業も新興の企業も、新たなビジネスモデルの創出に躍起になっています。

 ビジネスの成功を左右する要素には様々なものがあります。製品やサービスの品質、顧客へのアピール、宣伝の手法、そして「ブランディング講座」で解説してきたブランディングの考え方……。しかし、いかに優れた要素で構成されたビジネスであっても、時として、社会の変化について行けず時代に取り残されてしまったり、類似のビジネスを展開する競合他社との戦いに敗れてしまったりといった悲劇に直面することは有り得ます。そうした悲劇を避け、時代時代のニーズに合わせてビジネスを進化させる方法こそ、「ビジネスモデルの革新」――即ち「ビジネスモデル・イノベーション」に他ならないのです。

そもそもビジネスモデルとは

 「ビジネスモデル」という言葉は、主にインターネットビジネスの普及に伴ってよく聞かれるようになりましたが、本来は商業主体が利潤を得るための一連の構造を指す言葉です。この定義に従えば、我々が今日当たり前のものとして意識している「利子」や「証券」といった商業の仕組み、また「百貨店」や「スーパーマーケット」といった業態、「クレジットカード」や「通信販売」などのサービスも、それぞれが一つのビジネスモデルであるということができます。こうしたビジネスモデルも元は誰かが考え出し、社会がその有益性を認めることによって、万人が利用するインフラとして普及していったのです。

 「ビジネスモデル」という言葉を、最新のIT技術や先進的なグローバルビジネスに関連するものとして認識されていた方は、いま例示したビジネスモデルの例があまりに予想と違いすぎて驚かれたかもしれません。しかし、ビジネスモデル・イノベーションの核となる一つ一つのパターン自体は、必ずしも真新しい技術と紐付くものだけではないのです。むしろ、シンプルなパターン同士の組み合わせの妙によって新たな価値を生み出すことこそ、イノベーションの本質であるといえます。

オリヴァー・ガスマンらの研究

 ビジネスモデル・イノベーションに関しては、オリヴァー・ガスマン、カロリン・フランケンバーガー、ミハエラ・チックの共著による「ビジネスモデル・ナビゲーター」(2015)という専門書が特に有益です(日本では2016年10月に翔泳社から翻訳が出たばかりです)。

 同書冒頭でガスマンらが引いているボストンコンサルティンググループやIBM社などの調査結果によれば、ビジネスモデル・イノベーションの実施と企業の利益向上の間には明らかな相関関係があります。現代においては、製品やプロセスに関するイノベーションを実施した企業よりも、ビジネスモデル・イノベーションを実施した企業の方が明らかに高い利益を上げられるようになるというのです。ガスマンらは、もはや製品やプロセスはこれからの時代においてビジネスの成否を握る鍵ではなくなったと述べ、今後はビジネスモデルの革新性こそが企業の競合優位性を左右する時代になると断言しています。

 実際に、アマゾン社、アップル社、ピクサー社、スカイプ社、スターバックス社などの成功は、魅力的な新製品に支えられたものではありません。実店舗を1店も構えることなく世界最大の書店となったアマゾン、CDを取り扱うことなく世界最大の楽曲販売会社となったアップル、ひとりの俳優も使うことなく過去10年で11回のアカデミー賞を受賞したピクサー、ネットワークインフラを自社で有することなく世界最大の電話事業者となったスカイプ、きわめて標準的なコーヒーを売ることで世界最大のカフェチェーンとなったスターバックス……。これらの企業に共通しているのは、既存のものを組み合わせ、画期的なビジネスモデルの構築に成功したことです。

 僅か10年前の時点では、今日これらの企業が実現しているサービスの形を説明されたとしても、信じられない人が大半であったでしょう。社会にこれほど大きな変革をもたらしてしまうのがビジネスモデル・イノベーションの力なのであり、ガスマンらが「『通常のビジネス』を破壊する爆薬」と称するのも無理からぬことです。

 こうしたビジネスモデル・イノベーションを担うのは、ごく一握りの先進的な企業にだけ許された特権なのでしょうか? ガスマンらの答えは「ノー」です。正しい手順さえ理解すれば、世の中で成功しているビジネスモデルの形をシステマチックに分析し、自社のビジネスモデル設計に役立てることは決して不可能ではありません。

 次回以降の記事で、ガスマンらが提唱するビジネスモデル・ナビゲーターの詳細を見ていきましょう。