第17回 R25の例に見るターゲット策定の重要性

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ターゲットを絞ったブランディング

現代の商業社会においては、日々多くのブランドが生み出され、また忘れ去られていきます。新たにブランドを立ち上げる際には、一貫したアイデンティティを強固に打ち出し、多くの競合の中で埋没しないブランド力を確保することが必要不可欠です。

新たなブランドにいかなるアイデンティティを持たせるか。それを決める上では、まずはそのブランドのターゲットを策定することが重要です。性別、年齢、職業、収入、家族構成、趣味嗜好。ブランドが訴求すべきターゲットが定まれば、自ずと武器になるアイデンティティの方向性も見えてくるのです。

今回は、ターゲットを絞ったブランディングでは右に出るものはないリクルート社の事業の中から、若手男性向けフリーマガジン「R25」の事例をご紹介します。

R25誕生の経緯

かつてはベンチャーの先駆けと言われたリクルートも、今や創業55年。株式上場のニュースも記憶に新しい同社は、人材系事業を母体に、進学情報や住宅情報、ライフスタイルや街の生活情報にまで手広く取り扱い範囲を広げています。社員の主体性を重視していることが同社の特徴の一つであり、「ホットペッパー」や「ゼクシィ」など誰もが知るヒット作の数々も、ほとんどが社員からの提案によるものです。

今回取り上げる「R25」は、2002年、同社内の新規事業開発コンテストで準グランプリを受賞したプロジェクトでした。提案者は20代半ばの若手社員7名。インターネット世代と言われる彼らが考えたのは、あらゆるメディアがネット主体に移行する時代の逆を行く、紙メディア中心の「ペーパーポータル」というコンセプトでした。「ポータル」とはネット上で必要な情報を検索しアクセスする際の入口のことですが、R25のコンセプトはそれを紙メディアで実現するというものだったのです。

提案当時、リクルートは主力事業である情報誌を紙媒体からインターネットにシフトすることで売上の拡大を目指していましたが、売上高の構成は未だ雑誌76.1%、ネット15.9%で、ネットへのシフトの成否はまだ不明な時期でした。他方、フリーマガジンの「ホットペッパー」は全国で38版を発行するほどに拡大し、世間にフリーペーパーブームを呼び起こすなど、新たな事業の芽が育ち始めている時でもありました。R25が打ち出した「ペーパーポータル」というコンセプトは、一見するとネット世代の動きに逆らうようにも見えますが、同社内ではフリーペーパー事業拡大の路線に適ったものでした。

ターゲットセグメントの策定

経営ボードから高評価を受けた「R25」の企画ですが、その評価ポイントはフリーペーパー事業の発展性だけではありません。リクルートがR25の事業化に踏み切った第二の理由は、この「ペーパーポータル」が、これまで同社が得意としてきた細分化市場向けの情報商品ではなく、「M1層」と呼ばれる、20歳〜34歳男性からなるボリュームゾーンに狙いを定めたマスマーケティング志向の提案だったことです。明確な目的を持つ消費者をターゲットとしてきたこれまでの事業と異なり、マスマーケティング領域であれば、これまでは取り込めなかった一般消費財などを扱う大企業クライアントの広告出稿を受け入れることが可能になります。かくして、同社の成長戦略の核を担う新事業の一つとして、R25の企画は具体的に動き出しました。

R25の具体的なターゲットセグメントは、M1層の中でもさらに捉えるのが難しいと言われていた、「都心で働くビジネスマン」という人物像でした。ターゲット層の実態を把握するため、1万人規模の定量調査に加え、居酒屋などを舞台に200人規模のインタビューが実施されました。こうしてリクルートが発見したM1層のビジネスマンの実像は以下のようなものです。

・情報に敏感で、多忙な中でも時間を有効に使いたがっている。

・自分の価値に関心があり、自意識過剰で格好つけたがり。だが本当は表に出せない不安感を抱えており、実は助言を欲しがっている。

こうした見栄っ張りの若手男性達は、インタビューの中で、「日経新聞は読みたいが難しい」「ネットでニュースのヘッドラインは見ているが、それをどう考えるかという深い部分までは読み込めていない」「上から目線でなく、わかりやすくニュースを噛み砕いたコンテンツが欲しい」といった本音を漏らしていました。これを受けて、R25ブランドの精神が定まりました。同世代の先輩のような立場で、読者と同じ視点に立ち、物事をわかりやすく読み解いてあげるような記事。R25の読者層とコンテンツはこうして明確化されたのです。

市場に受け入れられたR25ブランド

他にやっているところが無いから、そのマーケットは空いている。マーケットが空いているなら自分達が取りに行く――それがリクルートの基本的な精神です。このシンプルにしてアグレッシブな発想を原動力として、R25ブランドは華々しいデビューを飾り、発刊早々に読者層に受け入れられました。ビジネスマンの通勤・退勤の導線上に配布ラックを設置し、電車内の暇潰しという心の隙間に入り込む戦術が功を奏して、R25はほとんどのラックで配布即日無くなるという圧倒的な支持を獲得。単なる暇潰しを超え、現在では十分認知されたブランドになったと言えます。

R25が対読者のブランド認知において大きな成功を収めた要因は、具体的なターゲットセグメントの設定と、綿密な調査による需要の炙り出しにあったといえるでしょう。R25を手にする読者は、「これは自分達のためのブランドだ」と認識し、そのブランドアイデンティティを自分自身のアイデンティティと重ね合わせることができます。そうした自尊心や安心感をくすぐってこそ、秀逸なブランドアイデンティティと呼べるのです。

しかし、R25のブランディングが優れているのは対読者認知だけではありません。次回の記事では引き続きR25を取り上げ、対広告主のブランド戦略についてもお話します。