第32回 ブランド・アイデンティティ

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ブランド・アイデンティティの在り方

競合との差別化ポイントの模索、ブランド・ストーリーの構築、そして強い自信を持つことなど、ブランディングを成功させるために必要不可欠な要素をこれまでいくつも見てきました。それらの要素の根底に共通しているのは、一貫したブランド・アイデンティティを確立し、また長きに亘って維持することです。BMW、三ツ矢サイダー、揖保乃糸など、長期にわたり成功しているブランドは、いずれも「このブランドはこういうものだ」というアイデンティティが一貫して守られています。

前回の記事で例に挙げた高騰度トマト「アメーラ」も、簡潔で一貫したブランド・アイデンティティを掲げて成功しているブランドです。今回はアメーラの事例を参考に、ブランド・アイデンティティの在り方について改めて考えてみましょう。

アイデンティティ構築の三つの条件

そもそもブランド・アイデンティティとは、そのブランドが象徴する普遍的な価値やイメージを表すものでした。長く続くブランドであればあるほど、アイデンティティは一貫して不変のものでなければなりません。これがブレると、ブランドは迷走を始め、それまでに積み上げてきた価値も失ってしまうのです。

さて、このブランド・アイデンティティの構築にあたっては、外してはならない三つの条件を考えることができます。それは「価値性」「独自性」「共感性」の三つです。

価値性とは、そのアイデンティティがターゲット顧客にとって価値あるものかどうかという観点です。消費者がブランドに求めるものは、商品の機能そのものではなく、それに付随するそのブランドならではの価値です。その価値が本当に魅力的なものかどうか、買い手の視点に立って考えることが重要になります。

次に、独自性とは、アイデンティティに自社ならではの個性があるかということです。サンファーマーズ社の稲吉社長が語るように、消費者はどこにでもあるものには高いお金を出さないのです。特に、今日のように世の中全体が豊かになった時代においては、平均的なものや無難なものの価値は下がり、より強い個性を持った商品がブランドとして高い価値を持つようになっています。

第三の観点である共感性とは、アイデンティティに消費者が共感し納得してくれるかということです。いかに高尚な理念であっても、消費者の共感が得られなければブランド・アイデンティティたりえません。ユニクロの野菜事業の失敗はその分かりやすい例と言えるでしょう。アパレルブランドが「日本の農業を変える」と言い出しても、消費者にはピンと来なかったわけです。

アメーラブランドのアイデンティティ

アメーラは、ウェブサイトをはじめとする宣伝媒体に以下のブランド・アイデンティティを掲げています。

「最高品質の高糖度トマトでおいしさの感動をお届けします」

文字数は26文字と簡潔ですが、この一文には、アメーラとは何であり、何を目指しているブランドなのかという情報が巧みに織り込まれています。この短さでありながら、先述の三つの条件を全て兼ね備えていることに注目してください。「最高品質」という価値性、「高糖度トマト」という独自性、そして「おいしさの感動をお届けします」という共感性。この26文字を目にしただけで、消費者はアメーラブランドの持つ価値と独自性を理解し、ブランドの姿勢に共感することができるのです。

アメーラブランドでは、このアイデンティティを消費者に向けて発信するのみならず、経営トップから末端の従業員、社外のブレーンに至るまで、全てのメンバーに常に共有しているといいます。経営戦略会議では毎回このブランド・アイデンティティの本質を再確認しているといいますし、トマトを生産する農場でも事務所の壁にこれを大きく貼り出しているというのですから、その浸透ぶりは相当なものです。

最初に「最高品質」「高糖度トマト」「おいしさの感動」というアイデンティティを強固に確立しているからこそ、アメーラブランドは商品開発や広報戦略においてもブレることのないブランディング戦略を展開できるのです。

ブランディングはまずアイデンティティありきで始まる

ブランド意識が世の中に浸透してきた今日では、とにかく自社にもブランド力が必要だと考え、明確な目標もないままに「ブランドを作ろう!」と意気込む経営者が少なくありません。しかし、どのようなブランドを作りたいのかという意識がはっきりしないままにブランディングを始めるというのはおかしなことです。強いブランドを打ち立てるためには、ブランドのあるべき姿、つまりブランド・アイデンティティを最初に明確にする必要があるのです。

よく見かける失敗例は、まずマスコットキャラクターありきでブランディングをスタートしようとしたり、あらかじめネーミングを公募で決めてあるなどのパターンです。ネーミングやシンボルマーク、ロゴ、キャラクターなどが生まれてくるのは、本来、ブランド・アイデンティティが明確化されてからのことです。「アメーラ」というユニークなネーミングも、「甘い(高糖度)」というアイデンティティが定まっているからこそ生み出されたのです。

ブランドを一から作るためには、小手先のことよりもまずブランドの中心となるアイデンティティを定めなければならないということがお分かりになるでしょう。