第31回 一番手を目指すことの意義

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ブランドは一番でなければならない

多少手垢の付いた話ではありますが、日本で二番目に高い山をご存知でしょうか。また、日本で二番目に大きい湖、お茶の生産量が第二位の都道府県、ジャガイモの生産量が第二位の都道府県はお分かりでしょうか。

答えはそれぞれ、北岳、霞ヶ浦、鹿児島県、長崎県です。しかし、日本の消費者1,000人を対象としたある調査によると、これらの問題への正答率は「山」が14.3%、「湖」が23.4%、「お茶」が12.9%、「ジャガイモ」が9.1%に過ぎませんでした。

このように、第一位の知名度の高さに対して第二位以下がほとんど知られていないというのは多くの分野に共通することです。あまりに知っている人が少ないことから、何らかの分野の第二位を答えさせる問題はカルトクイズの定番となっているほどです。

この事実はブランディングにおいても重要です。第二のアップル、第二のスターバックス、第二のマクドナルドなどを目指して失敗するブランドが後を絶たないのは、トップランナーに資本力で及ばないことだけが理由ではなく、「第二の○○」を標榜する発想そのものがブランディングと相容れないからなのです。

オンリーワンとはナンバーワンになること

以前の記事では、ブランディングにおける物量戦とゲリラ戦という二つの戦い方を紹介してきました。前者は資本力のある大企業に、後者は中小企業や後発ビジネスに向いた戦術といえますが、どちらにも共通しているのは、当該分野における一番手を極めることに全てが懸かっているということです。

過去に取り上げた「三ツ矢サイダー」や、前回の記事で紹介した「揖保乃糸」は、それぞれサイダーや素麺という大きなカテゴリの中でトップを走り続けるブランドです。また、やはり以前取り上げた「近大マグロ」や特撮テレビ番組の「牙狼」は、マグロ、ヒーロー番組という昔からあるカテゴリの中で、「大学発の完全養殖マグロ」や「大人向けの深夜特撮」という独自のポジショニングを確立して成功したブランドでした。

ちなみに、NHK放送文化研究所が発表した調査では、日本人が好きな山の第一位は富士山ですが、第二位は阿蘇山でした。阿蘇山は、標高では国内ベスト100にも入らない山ですが、世界有数の巨大なカルデラや、多くの火山体からなる火山群など、雄大で多様な火山地形を特徴としています。阿蘇山を擁する阿蘇市は、「山」という大きなカテゴリで戦うのではなく、「カルデラ火山」という一番手になれるカテゴリを打ち出し、そこに阿蘇山ブランディングの全てを懸けているのです。

「ナンバーワンにならなくてもオンリーワンになればいい」という言葉は、ブランディングにおいては半分当たっており半分外れているとも言えます。オンリーワンになるということは、即ち、独自のカテゴリでナンバーワンになることとイコールなのです。

消費者は、どこにでもあるものにはお金を出さない

静岡県で開発された高糖度トマト「アメーラ」は、トマトという古くからあるカテゴリの中で「甘いトマト」という独自の勝負ポイントを打ち出し、高級ブランドとして成功している事例です。トマトには本来「甘い」というイメージはそれほどありませんが、アメーラの生産者達は、だからこそ「甘さ」に全振りすれば勝てると踏んだのです。アメーラは、フルーツと同等かそれ以上の糖度を目指して作られており、「アメーラ」という名前も静岡の方言である「甘えらー(あめえらー)」にちなんでいます。

アメーラブランドのミニトマト「アメーラルビンズ」及び「ルビンズゴールド」は、グルメ志向の消費者をターゲットとした高糖度のミニトマトという、それまでになかったポジションの商品です。普通糖度のミニトマトには多くの既存商品があったわけですし、高騰度トマト、フルーツトマトというジャンルの商品も普通サイズのトマトには増えてきていました。しかし、ミニサイズかつ高糖度という二つの特徴を併せ持つ商品はほとんど存在していなかったのです。

「消費者は、どこにでもあるものには高いお金は出しません。要するにオリジナルでなければならないのです」とは、アメーラブランドを展開するサンファーマーズ社の稲吉社長の言葉です。この言葉が示すように、後発ブランドが価格プレミアムを確立するためには、それまでになかった独自のポジションを見つけ、そのカテゴリにおけるオンリーワンかつナンバーワンの存在になることが先決なのです。

トップオブマインドを目指す

過去の記事で述べたとおり、ブランディングを行う目的の一つには、消費者の選択意思決定を単純化・固定化するということがありました。「車といえば◯◯」「ビールといえば◯◯」と特定のブランドが消費者の意思にインプットされることで、消費者は再び同じブランドの商品を選ぶようになります。こうした「○○といえば」という設問で最初に想起されるブランドを、ブランディングの用語では「トップオブマインド」と呼んでいます。一番手を極めるブランディングとは、つまりこのトップオブマインドの地位を目指すことに他なりません。

自社のブランドが、たとえ阿蘇山のように高さでは勝負にならないものであったとしても、「カルデラ火山」というような強烈な個性があれば、日本のカルデラ火山というカテゴリのトップオブマインドになることができます。ここで「自社の商品がブランドになどなるはずがない」と諦め、勝負所を探すのを怠ってしまうことが、ブランディングの最大の敵です。自社ブランドに自信を持ち、「これでならトップを取れる」というポイントを見出すことができれば、ブランディングは決して夢物語ではなくなるのです。