第44回 ブランド顧客のステージ区分

    Posted in: ブランディング講座

ブランド顧客のステージ区分

これまでの記事では、ブランド顧客の区分を紹介し、中でもブランドの中核を占める顧客である「ブランド・パートナー」の獲得に向けたブランディング戦略について話してきました。

しかし、ブランドの顧客の区分といっても、実際には同じ顧客がずっと同じ購買活動を続けるということはありません。元々さほどブランドに興味を持っていなかった顧客が徐々に優良顧客に成長していくこともありますし、逆に優良顧客だった人が流行の変化やライフステージの変化に伴ってブランドから離れてしまうということもあるでしょう。そこで、ブランド・パートナーをはじめとする顧客区分とはまた別の話として、顧客のブランドへの関わり方の遷移を示す「顧客のステージ区分」という考え方を導入しなければなりません。

これを意識することで、広義のマーケティングと、ブランディングの違いも見えてきます。

ブランド顧客の誕生から離脱まで

ブランドの顧客を一人ひとりの個人として見ると、ある人が、ある日突然優良顧客になるということはありえません。将来の優良顧客も、最初はまずブランドの存在をおぼろげに認識し、興味を次第に募らせていき、いつしかそのブランドを愛用するようになるというプロセスを踏みます。そして、多くの人は、いずれそのブランドへの熱意を失っていき、最終的にはブランド顧客から離脱していきます。もちろん、出来ることならこの離脱を食い止め、そうでなくても優良顧客で居てくれる期間を可能な限り引き延ばすのもブランディングの目的の一つになります。

一人のブランド顧客の誕生から離脱までのステージは、以下の7区分で表すのが妥当でしょう。

  • 次期顧客(顧客ステージ「-3」)
  • 潜在顧客(顧客ステージ「-2」)
  • 検討顧客(顧客ステージ「-1」)
  • 現在顧客(顧客ステージ「0」)
  • 回遊顧客(顧客ステージ「+1」)
  • 離脱顧客(顧客ステージ「+2」)
  • 卒業顧客(顧客ステージ「+3」)

このステージの並び順は、そのまま、一人の顧客がブランドと関わりを持ち、やがて離れていくまでの時間の経過に沿っています。また、顧客ステージとして表されるプラスやマイナスの数字は、絶対値が大きいほどブランドからの距離が遠いことを示しています。つまり、顧客は「次期顧客→潜在顧客→検討顧客」と時間の経過を経るごとにブランドとの距離を縮めていき、「現在顧客」に至ってブランドとの距離は最も近くなり、やがて「回遊顧客→離脱顧客→卒業顧客」となってブランドから離れていくということを意味します。

各ステージにおける顧客の意識

顧客ステージの絶対値に注目しながら、各ステージにおける、自社ブランドや商品カテゴリへの意識を見てみましょう。なお、商品カテゴリとは、BMWであれば「自動車」、マクドナルドであれば「ファーストフード店」のように、そのブランドが競合と比較される際の括りのことです。

まず、絶対値が「3」である「次期顧客」と「卒業顧客」、即ちブランドからの距離が最も遠い顧客層とは、当該ブランドが属する商品カテゴリへの関心がそもそも薄い顧客といえます。「次期顧客」は、その商品カテゴリとの接点を未だ持たないものの、今後のライフスタイルの変化によって商品カテゴリとの接点ができる可能性がある顧客。逆に「卒業顧客」は、ライフスタイルの変化によって商品カテゴリとの接点がなくなり、それまであった自社ブランドの利用も終了した顧客です。自動車というカテゴリを例にすると、「次期顧客」には未だ運転免許の取得年齢に達していない青少年、「卒業顧客」には既に運転から引退したシニア層などが当てはまるでしょう。

次に、絶対値が「2」である「潜在顧客」と「離脱顧客」は、商品カテゴリへの関心はあるものの、自社ブランドには意識が向いていない顧客です。「潜在顧客」は、商品カテゴリの必要性があり、切っ掛けさえあれば自社ブランドの利用を検討してくれる顧客。「離脱顧客」は、商品カテゴリへの必要性は依然としてあるものの、それまであった自社ブランドの利用は徐々になくなりつつある顧客です。例えば、今は比較的安価な国産車に乗っているが、いずれは高級車に乗りたいと思っている人は、BMWというブランドにとっての「潜在顧客」に当てはまるといえるでしょう。逆に、若い頃は車好きで貯金をBMWの車につぎ込んでいたが、今は家庭を持ち、ファミリーカーに需要が移っている……という人は「離脱顧客」といえます。

絶対値が「1」となる「検討顧客」と「回遊顧客」に至って初めて、商品カテゴリへの需要は当然の前提となり、自社ブランドへの関わりを議論できるステージになります。「検討顧客」は、自社ブランドの価値を事前に認識し、現実にその利用を検討している顧客。「回遊顧客」は、自社ブランドの利用経験を踏まえて、競合ブランドも並行して利用しており、既に自社ブランドが「選択肢の一つ」となっている顧客のことです。

BMWにとって、「いよいよ高級車を購入できる余裕ができたが、ベンツか、BMWか、はたまたレクサスか……」と迷っている人は「検討顧客」、既に複数ブランドの高級車を乗り回して次の愛車を検討している人は「回遊顧客」といえるでしょう。

最後に、絶対値が「0」である「現在顧客」とは、自社ブランドの愛用者であり、意識が自社ブランドの方を強く向いている顧客を指します。これがブランディングにおける最重要顧客であることは言うまでもありません。

マーケティングとブランディングのターゲットの差異

一般的なマーケティングにおいては、「検討顧客」「現在顧客」「回遊顧客」の3つの層だけが活動の対象となります。マーケティングは消費行動が伴う範囲のみを領域としているため、ひとまず、購入という動きを見せる顧客だけをターゲットにすればよいということになります。

一方、ブランディングは、7つの層全てを活動の対象とします。直ちに購入に動いてくれる顧客のみならず、ブランド価値が及ぶ範囲の人々全てがブランディングのターゲットとなるのです。

例えば「次期顧客」に属する人は、直ちにブランドにお金を投じてくれることはありませんが、この段階からブランドのイメージをその人の頭に刷り込んでおけば、その人のライフスタイルが変わって「検討顧客」のステージに至った際に意味を持ちます。「卒業顧客」もまた、自らのためにブランド商品を購入することはなくとも、家族や周囲の人にブランドの魅力を伝えてくれたり、贈り物として購入してくれる可能性はあり、ブランドにとっては大事な顧客なのです。