第43回 ブランディングのペルソナ設定

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ブランディングのペルソナ設定とは

直近の記事では、ブランド顧客の4区分という考え方を導入し、ブランディングの中核となる顧客の姿を探りました。顧客の区分の中でも「ブランド・パートナー」という層は、個人がブランドにもたらす顧客生涯価値も高く、またブランドの新規顧客獲得コストの低減にも協力してくれる、ブランドにとって最も有り難い種類の顧客でした。ブランディングにおいては、まずこのブランド・パートナーの獲得と維持を主目的として戦略が立てられることになります。

今回は、ブランド・パートナーの獲得に向けた下準備の一つとして、「ペルソナ設定」という手法を紹介します。

ブランド・パートナーの人物像を明確化する

ブランド・パートナーがブランドの中核になる顧客だといっても、具体的にどのような人達がブランド・パートナーになってくれるかは、当然、ブランドごとに異なります。そのため、ブランド・パートナーの獲得や維持に向けたブランディング施策を考える際には、それに先立って、自社ブランドにとっての理想的なブランド・パートナー像を明確にしておく必要があります。

そこで用いられる方法の一つに「ペルソナ設定」があります。ここでいう「ペルソナ」とは、複数の要素を組み合わせ、架空の一人の人物として明確化したものです。ブランド・パートナーがあくまで数字で表される顧客の塊であったのに対し、ペルソナはそれを深掘りして人間らしさを可視化したものであり、一人の人物として描写されるため誰にとっても想像しやすいという利点があります。実際のブランディング施策を進めていく際にも、その人物を基準にして適切か否かの議論が展開できるため、ブランドの目指す地点を明確化しやすくなります。

ブランド・パートナーのペルソナは、古典的なマーケティングにおけるターゲット像のペルソナとは意図が異なります。マーケティングの文脈における「ペルソナ」は、現在の市場において重要と思われる顧客像を事実に基づいて抽出し、マーケティング活動の「ゴール」としてイメージされるものでした。しかし、ブランディングの「ペルソナ」は、自社からみた理想の顧客を現実の要素を元に描き出し、「こんな顧客とともに歩んでいきたい」というブランドの理念を込めるものになります。いわば、顧客に愛されるブランドを創るために、まずはブランドの側から愛したい人物像を想定するわけです。

ペルソナは一人の人物として設定する

ペルソナは、「何歳から何歳くらいまでの層」などの広範な定義ではなく、あくまで一人の人物として設定するものです。したがって、年齢、性別、職業、家族構成、趣味などのプロフィールや、当該ブランドに対する意識、原体験、そのブランドが属するカテゴリ全般に関する意識や行動、それに情報発信行動の状況など、あらゆる事柄を詳細かつ厳密に設定することが望ましいといえます。企業によっては、こうして作られたペルソナに名前までも設定し、架空のキャラクターのごとく扱っている場合もあります。

くれぐれも、ブランディングにおけるペルソナ設定のポイントは、現実の市場でマジョリティを占める層にフォーカスするのではなく、ブランドが独自に考える理想の顧客像を描くものなのだという点を忘れてはなりません。よって、ブランドにとって愛したい顧客の姿であるならば、どれほどマイノリティな特徴を持ったペルソナでも構わないということです。ただ、実際には、広く世間に浸透するブランドを目指すのであれば、極端にマイナーなペルソナ設定を行うことはほぼ考えられないというべきでしょう。

ペルソナ設定の実例

ブランド・パートナーのペルソナを詳細に設定し、優れたブランディングの効果を上げている企業は数多くあります。例えば、アサヒビールは2009年発売の発泡酒「クールドラフト」の開発にあたり、2,000人にのぼる消費者にインタビュー調査を行い、ブランド・パートナーとなるべきペルソナの人物像を探求しました。その結果、見出されたのは、「44歳の男性、自営業、家族持ち、年収900万円」という人物像です。アサヒビールはこの男性が欲しがる発泡酒の在り方を徹底的に考え、キンキンに冷えたビールの清涼感を全面に出したパッケージや商品名を開発しました。こうして売り出された「クールドラフト」は、発売から3ヶ月で約300万箱を出荷する大ヒット商品となったのです。

また、スープのファーストフードチェーン「Soup Stock Tokyo」も、メニューや店舗の雰囲気を形作りにあたり、詳細なペルソナ設定を用いたことで知られています。創業者の遠山氏が思い描いたペルソナ像は、「都心で働く37歳のキャリアウーマン」という女性。遠山氏はこのペルソナに「秋野つゆ」という名前も与え、「装飾性より機能性を重視する性格」「プールでは平泳ぎよりもクロールで泳ぐ」「フォアグラよりレバーが好き」といった趣味嗜好の設定を細かく設定していきました。そして、「秋野つゆ」が満足するようなメニューや立地、店舗の雰囲気などを徹底的に追求していった結果、「Soup Stock Tokyo」は創業10年で店舗数52店、売上高42億円を数える一大チェーンに成長したのです。

男性用化粧品「MEN’S TBC」もまた、ブランド認知を向上させるべく、ペルソナ設定の手法を効果的に用いています。同社が設定したペルソナは、「三軒茶屋のワンルームマンションに暮らし、都内のA学院大学に通う20歳の男性」という人物像でした。この設定をもとに、この男子学生が頻繁に利用するコンビニでまずは男性用化粧品を販売し、ブランドの認知度を向上させていくというブランディング戦略が取られました。その結果、「MEN’S TBC」のブランド認知は格段に向上し、エステサロンからの問合せが従来の3〜4割も増加するという効果をもたらしました。

これらの例に見られるように、ペルソナの設定においては、いかに具体的な人物像を詳細に作り込むかということが極めて重要になります。それはブランドの歩むべき道を照らす光明となり、開発メンバーにとってもブランドの在り方を明確に再確認させる旗印となるのです。