第42回 AKB48に見るブランド顧客獲得戦略

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ブランド・パートナーの姿を知る

前回の記事において、ブランド顧客の4分類を紹介し、中でも「ブランド・パートナー」と呼ばれる顧客こそがブランディングの中核になる存在であると述べました。ブランドに対する顧客生涯価値を高く保ち、同時にブランドの新規顧客獲得にも貢献しうるブランド・パートナーという人々は、まさにブランドの成功を左右する重要な顧客であるといえます。

効果的な顧客獲得手法を検討するにあたり、今回は、熱狂的なブランド・パートナーに支えられた人気ブランドの例として、アイドルグループ「AKB48」のケースを見てみましょう。

隆盛を極めるAKB48

女性アイドルグループ「AKB48」は、かつて「おニャン子クラブ」でも一世を風靡した秋元康氏のプロデュースにより、2005年12月に誕生しました。元は秋葉原のオタク層向けアイドルとしてデビューしたAKB48ですが、メディアへの積極的な露出で徐々に一般層にもファンを拡大し、結成10年を経た現在では国内外に7つの姉妹グループを擁する巨大組織へと成長しています。

ドラマやバラエティ番組にメンバーの出演を「ゴリ押し」する手法や、CDにイベント参加券を同梱することで売上枚数のブーストを狙う「握手券商法」などが何かと揶揄されることも多いですが、それでも今日では市井においてAKB48関連の楽曲を耳にしない日はないと言われるまでの一般浸透度を獲得しており、同グループのブランディングは上首尾の成功を収めていると評さざるをえないでしょう。

ブランド・パートナーという顧客の存在がブランディングの成否を左右することは既に述べましたが、AKB48の成長経緯をみると、強力なブランド・パートナー層の獲得と維持がいかに重要であったかがわかります。第一段階として熱狂的なブランド・パートナーを増やし、定着させ、ブランド・キャスターに飛び火させて知名度拡大を図り、最終的には一般顧客にまでブランドを浸透させる――AKB48が10年間に亘って描いてきたブランディング戦略を見てみましょう。

オタクはブランド・パートナーである

ブランド・パートナーとは、当該ブランドに対する顧客生涯価値が高く、またブランドの新規顧客獲得コスト低減にも貢献してくれるような顧客を指す言葉でした。

顧客生涯価値の高い顧客とは、最も極端な例としては、「このブランドこそが自分の人生の全てである」と思ってくれている人物のことです。ブランドに対してそれ程のロイヤリティ(忠誠心)を持ち、さらに周囲にもブランドの魅力を広めることに余念のない人々。自らもブランドに多くのお金を投下してくれつつ、新たな顧客までも連れてきてくれる、まさにブランドにとって理想的な顧客といえる存在がブランド・パートナーなのです。

AKB48がメインターゲットとする「アイドルオタク」のような人々は、ブランド・パートナーの条件を完璧に備えているといえます。握手券(好きなアイドルメンバーとイベントで握手できる券)を同梱したCDが発売されるたび、ファンが同じCDを一人で何十枚と購入し、大量の握手券を持って何度も握手会の列に並ぶのはよく知られた光景です。一年に一度行われる人気投票イベント「選抜総選挙」においても、CDの購入枚数に比例して投票権が与えられるため、お気に入りのメンバーを高順位にランクインさせたいファンがCDを大量購入しています。AKB48の収益は、こうした熱狂的なブランド・パートナーによって支えられており、「オリコンチャート」などのCD売上ランキングにも大量購入による「水増し」が反映されていることは周知の事実でしょう。

AKB48は、誕生当初から、こうした熱心なブランド・パートナーの獲得に努めてきました。同グループは秋葉原の専用劇場における生公演を活動の主軸と位置付けており、メディアへの露出が増えた現在でもその建前は変わっていません。「会いに行けるアイドル」というコンセプトを掲げる同グループは、ファンとアイドルを身近に思わせる工夫、いわば擬似恋愛の演出にブランディングの全てを懸けているといえるのです。こうして獲得されたブランド・パートナーの層の厚さは、同グループの工夫と努力の証といえます。

人気の波及はブランド・キャスターへ、そして一般顧客へ

ブランド・パートナーの獲得と維持に注力しているAKB48ですが、単に熱心なアイドルオタクを繋ぎ止めるだけで終わらないのが、このビジネスモデルの優れた部分です。

AKB48をチャート首位たらしめる「過程」は一握りのファンによる大量購入であったとしても、チャート首位という「結果」は世の中全てに波及し、アイドルに興味のなかった人々の耳にまで余すことなく彼女らの名前や楽曲を届かしめる効果をもたらします。中でも流行に敏感な人々は、チャート首位であるとか、メディアへの露出が多いといった事実をもって無懐疑にAKB48を「流行っているもの」と認識し、自らもその流行に乗ろうとしてくれます。かくして同グループは有力なブランド・キャスターを味方につけ、ひいては広く一般顧客の取り込みにまで成功することになります。

ここで見られるように、ブランド・パートナーの獲得はブランディングの中核をなすものではありますが、それが全てではないというのが重要なポイントです。ブランド・パートナーの存在はあくまで足がかりとして、その先にブランド・キャスターや一般顧客を取り込む仕組みを用意していなければ、ブランドを世間に広く浸透させることはできません。

AKB48のブランディングは、ブランド・パートナーの獲得がそのままブランド・キャスターや一般顧客への知名度向上に繋がっているという点が白眉であり、いわば二段構えの顧客獲得戦略ということができるでしょう。