第39回 ブランド・エクイティとは何か

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ブランド・エクイティという考え方

前々回から前回にかけて、ブランディングの原点に立ち返るべく、ブランドという概念の受容と発展の歴史について見てきました。現代のビジネスシーンにおけるブランディング重視の端緒となったのは、1980年代から欧米のマーケティング界で盛んに取り沙汰されるようになった「ブランド・エクイティ」(ブランド資産)の理論にほかなりません。

ブランディングへの理解を深めるべく、今回はこのブランド・エクイティという考え方について掘り下げてみます。

企業の資産としてのブランド

「エクイティ(equity)」という英語は、本質的には「経営資産」を意味します。1980年代当時、ブランド・エクイティ理論が斬新だったのは、ブランドを企業が持つ無形資産の一つとして位置付けたことだったのです。

企業の資産には、土地や建物、工場やその設備などの有形資産と、特許や商標、情報やノウハウなどの無形資産があります。資産であるからには、金銭に換算できる価値や希少性を持つと同時に、管理の必要性も生じ、また、適切な管理によって価値を増大させることができるということにもなります。ブランド・エクイティの研究においては、ブランドの無形資産としての特徴や、それに基づく運用法が次々と提唱されていきました。

ブランドという資産にはどのような特徴があるのか、以下に見てみましょう。

ブランドは長期的に保持できる資産

資産としてのブランドの第一の特徴は、市場や消費者に根差した資産であるという点です。有形資産は老朽化するものですし、情報の優位性も数年で意味をなさなくなります。また、ノウハウのような無形資産は特定の従業員に専属していることが多く、その従業員がいなくなれば失われてしまいます。しかし、ブランドという資産は、企業側ではなく消費者の意識の中に存在しています。したがって、企業が適切な管理を怠らなければ、大きな不祥事を起こしたりしない限り、ブランドは比較的長期にわたって企業の資産であり続けてくれるのです。

消費者の意識に一度根付いたブランドの価値は、そう簡単に失われることはありません。消費者のブランドに関する記憶や価値は年月を経てもそれほど変わることはありませんし、元の記憶がポジティブなものであれば、たとえ企業が事故や不祥事を起こしたとしても、後に価値を取り戻すこともできます。

多くの企業が長年続くブランドの構築を目指す背景には、ブランドが持つこうした特徴のメリットがあるのです。

ブランドは希少性の高い資産

ブランドいう資産の更なる特徴は、希少性が高く、模倣が困難である点です。この特徴は、以前述べた「物量戦とゲリラ戦」という二つのブランディングの手法の内、主に大企業が取るといわれる物量戦の手法に寄与しています。ブランド研究の初期においては主に大企業がブランディングの主体と考えられていたため、それに沿った理論が展開されました。

多くの消費者が購入経験を持ち、ポジティブな記憶を抱いているブランドというのは、市場において希少な存在です。「チョコレートといえば」や「石鹸といえば」など、特定のカテゴリを提示されたとき、頭に浮かぶブランド名は決して多くはないでしょう。消費者が同一カテゴリで想起することのできるブランド名は最大でも7つ前後と言われています。そのため、強力なブランド・エクイティを持つ企業は、それだけで競合優位性を有するということになります。それほどのマーケティング投資を継続的に行える企業は限られてくるためです。

花王やライオン、それにブランドの歴史でも取り上げた「アイボリー石鹸」のP&Gなど、日用品を取り扱う企業は、ブランド・エクイティの構築のために多額のマーケティング投資をしてきた顕著な例といえます。巨大な製造設備や材料の調達力、製品を全国の小売店に並べられる営業力や実績など、大企業ゆえの力をフルに活用し、消費者にブランドを認知させることに努めてきたのです。こうして打ち立てられたブランド・エクイティは、容易には模倣できないものになります。競合との差別化、即ち類似商品との泥沼の価格競争の回避という、ブランドの最大の目的の一つはこうして果たされることになります。

ブランド・エクイティに関する誤解

ブランド・エクイティ理論の第一人者であるデイヴィッド・アーカーによると、日本のマーケターはブランド・エクイティの捉え方を誤解しているケースが多いといいます。理論の真意が理解されないまま、「ブランド・エクイティ」が魔法の言葉として使用されていることが多いのです。

ブランドマネジメントの目的は、ブランド・エクイティを高めることではありません。「エクイティ」とは財産ではなく資産、即ち将来にわたって企業に利益を及ぼすことができる経営資源のことです。ブランド・エクイティ理論の本質は、ブランドを「ヒト・モノ・カネ」などと同様の経営資源として捉え、その管理によって収益や企業価値を高めることにあるのです。ブランド・エクイティを構築するだけで満足していてはならず、それを運用して利益を生み出すことまで考えられて初めて意味があるということです。

日本の企業は、過去に費やしてきた時間や労力に対する執着心が強いため、今ある知名度やイメージなどのブランド価値が資産として運用できないレベルであっても、それを捨て去ることに躊躇する傾向があります。欧米の企業はこの点を合理的に割り切り、資産にならないレベルのブランド価値はあっさりと切り捨て、新たな資産の形成に力を注ぐことが多いといえます。ブランド・エクイティとは、今目の前にある財産ではなく、未来に対して戦略的に投資すべき資産なのです。この点を見誤らないように気をつけたいものです。