第38回 ブランドの歴史(現代のビジネス)

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現代のビジネスとブランディング

前回の記事では、古代から現代に至るまでの「ブランド」という概念の誕生と発展に触れ、人類社会とブランドがどのように関わってきたのかを概観しました。現在のブランドに通じるコンセプトは古くからあり、ブランドという概念もまた産業や経済とともに発展してきたことがお分かりになると思います。

今回は、現代のビジネスシーンに話を絞り、我々が今日語るところの「ブランド」がどのように受容され発展してきたのかを見てみましょう。

米国マーケティング界におけるブランディングの受容

現在、ブランドやブランディングという言葉は様々な分野で市民権を得ていますが、これを最初に持ち出したのは欧米のマーケティング関係者であったことに異論はありません。欧米のマーケター達がブランドの構築を意識したマーケティングを実施し始めたのは1980年代のことと言われています。米国のマーケティング研究機関であるMSI(Marketing Science Institute)では、1980年代後半から既に「ブランド・エクイティ」(ブランド資産)を再重点研究課題に設定していました。1990年代に入ると、米国のマーケティングの第一人者であるデイヴィッド・アーカーがブランド・エクイティ理論を著作にまとめ、彼に続く多くの学者や実務家がブランディング研究の成果を発表するようになりました。こうして、学界の関心と実務家の需要が一致する形で、ブランディングの研究と実践はマーケティング界に一躍ブームを巻き起こしたのです。

1998年には、ケビン・ケラーの名著「戦略的ブランド・マネジメント」が出版され、大学の講座でテキストとして利用されるようになります。同書を経て、ブランディングは体系化されたメソッドとなり、また大学などの教育機関で教授することのできる教科にもなったわけです。2005年には、マーケティングの教科書として定評のあるフィリップ・コトラーの「マーケティング・マネジメント」にケラーが共著者として迎えられました。これにより、ブランディングがマーケティングの体系の重要なパートに位置付けられたことが誰の目にも明らかになりました。

いまやブランディングは、マーケティングを学び実践する上で必修の知識の一つとなったのです。

なぜブランディングが重要視される時代に至ったのか

1990年代に入り、マーケティングの現場でブランディングの重要性が増した背景には、経済や経営環境の変化に伴って消費者の選択の自由が拡大したことが理由としてあります。英国のサッチャーイズム、米国のレーガノミックスなどと呼ばれる経済政策のもと、政府による規制撤廃が各分野で進み、国営に代わって多くの民間企業が台頭するようになりました。ナショナルフラッグの国営航空会社が民営企業に移行していったのはその最たる例です。日本でも、電電公社がNTTに変わり、携帯電話の普及と並行するようにしてKDDIやソフトバンクなど複数の電話会社が競合する時代に移行したのは記憶に新しいでしょう。

こうして、経済が自由主義の様相を色濃くすることで、多数のブランドが立ち並び、消費者が自由にそれを選択するという時代が訪れました。また、政策としての経済自由化と並行して、1980年代以降、流通業の内部でも今までよりオープンな形での小売業が登場しました。メーカーの支配を受けることなく、様々なメーカーの商品を自由に取り揃えて販売する、コンビニエンスストアやディスカウンターといった業態の出現です。こうした新しい商業社会の到来を受けて、消費者に選ばれ生き残るために、各企業はこぞってブランド力の向上に務めるようになりました。メーカーと小売のパワーバランスが崩れていく中、小売業に安易なディスカウントを許さないという意味でも、ブランディングによる価格プレミアムの獲得は必至になりました。

また、技術や情報の発達により、競合メーカー間の商品開発力が平準化されてきたことも、ブランディングが必要とされた理由の一つといえるでしょう。どのメーカーでも同じような品質の商品が生産できるようになったことで、高品質だけでは差別化が困難になり、旧来の「モノ作り」だけでは生き残れないと悟った企業は続々とブランディングに力を入れるようになったのです。

ネット時代とブランディング

インターネット時代の到来を受けて、ブランディングの重要性はさらに増してきたといえます。ネットでは誰もが自由に情報を発信することができますが、世の中に発信される情報の総量が多いということは、目立つ情報はさらに目立ち続け、目立たない情報は誰からも注目されず埋没していくということでもあります。それまでの時代であれば、小売店の片隅にひっそりと陳列されているだけで誰かが買ってくれたような商品であっても、ネットの世界では誰にも拾い上げてもらえず消えていくということが起こり得るのです。こうした時代にあっては、大企業から零細企業に至るまで、あらゆる商業主体がより強いブランディングを意識せざるを得なくなりました。

コーポレートサイトやランディングページ、SNS広告や動画プロモーションなど、それまでになかった形態で自社ブランドを広報していく動きも盛んになっています。今後もブランドは経済活動の中心を占める存在であり続け、我々の知らない新たなブランディング手法が登場してくることは想像に難くありません。