第37回 ブランドの歴史(古代から現代へ)

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ブランドという概念はいつ生まれたのか

本記事ではこれまで、ブランドが持つ力や、ブランディングの意義、そして強いブランドを作るための戦略について、様々な例を引きながら解説してきました。しかし、色々な角度からブランディングを見ていると、時として、ブランドとはそもそも何だったのか分かりづらくなってしまうこともあるかもしれません。時には原点に帰り、「ブランドとは」の基本を掘り起こしてみることも大切でしょう。

今回はやや趣向を変え、ブランドという概念が成立した歴史的背景を概観し、人類史とブランドの関わりについて考えてみます。

古代のブランドは産地から始まった

今日でいう「ブランド」の概念が成立したのは現代に入ってからのことですが、古代や中世においても、ブランドと同様の記号を持つ商品は存在していたと言われています。

人類の歴史上、最初に現れた商品ブランドは「産地ブランド」であると考えられます。紀元前50年頃、ローマ帝国のユリウス・カエサルが現在のフランスにあたるガリア地方を武力で平定した際、ローマの飲み物であるワインがガリアの地にも広まりました。カエサルは当地の人々にブドウの栽培を奨励し、人々もまたワインに魅せられて盛んにブドウの栽培やワインの醸造を行うようになりました。ガリア産ワインはローマでも大評判となり、帝国中の人々がガリア産ワインを求めるようになります。ここに「ワインといえばガリア産」という産地ブランディングが成立したのです。その後、プロブス帝の保護政策によってガリア地方のワイン作りはさらに活気を増し、現在のフランスワインに繋がる産地ブランドとしての地位が確かなものとなりました。

また、縄文時代の日本にも「産地ブランド」があったという話があります。石器の材料となる黒曜石がそれです。火山岩の一種である黒曜石は、産地ごとに異なる組成を持ち、それによって石器に加工した際の良し悪しも異なってきます。縄文時代の人々にも「どこの黒曜石でも良いわけではない」という意識が立派にあり、中でも伊豆諸島の神津島(こうづしま)で産出され見高段間(みたかだんま)で加工された黒曜石は一等品として重宝されていました。明治大学黒耀石研究センター員の池谷信之氏は、これを「見高段間ブランド」と呼び、見高段間の黒曜石が古代社会における「威信財」としての役割を果たしていたのではないかと考察しています。今の言葉でいえば、これは「高級ブランド」ということになるのでしょう。

貨幣経済が未発達であったと思われがちな古代から、人類の歴史はブランドと共にあったといえるかもしれません。

消費者用パッケージ財の誕生

中世から近世にかけて産業が発達すると、ブランドの概念も新たな発展を見せるようになりました。例えば、中世ヨーロッパにおいては、パン職人が自分の店の証としてパンに焼き印を押し、偽物と区別するということが行われていました。「ブランド(brand)」という言葉自体、家畜の持ち主を特定するために押されていた焼き印に由来するものですが、自己の所有物だけではなく販売品にも自分の印を入れることが既に始まっていたのです。

パンなどの日常の品物にもましてブランドが意識されるようになったのは、煙草や酒などの嗜好品でした。日本でも、江戸時代には「国分たばこ」や「服部たばこ」など地名を冠した煙草のブランドが多く存在しており、同時期には醤油や酢などの調味料のブランドも発達しています。キッコーマンやミツカンなど、現在でも知られるブランドのいくつかは江戸時代に端を発するものです。

さらに時代が下り、19世紀以降になると、大量生産による消費者用パッケージ財が各分野で流通するようになり、それに伴ってブランドもよりその意義を増すことになりました。米国のプロクター・アンド・ギャンブル社が1879年に売り出した「アイボリー石鹸」は、消費財におけるブランドの黎明を代表する存在です。石鹸が店頭で切り売りされていた頃は、消費者にとって「石鹸」は「石鹸」でしかなく、石鹸に個別の名前(ブランドネーム)がある状態は想像もされないものでした。そんな石鹸に「アイボリー」と名前を付け、小分けしてパッケージで売るという発想は、現代に繋がるブランディングの萌芽といえます。同社は1882年から、小売店や卸業者に向けてではなく消費者に直接向けた広告を打つようになり、またその広告スローガンも「It Floats(浮く石鹸です)」や「99.44%ピュア」などといった、他の石鹸との差別化を意識したものでした。これと並行して、食品や薬品などの分野でも既存商品との差別化を狙ったパッケージ財が各種売り出されるようになり、ブランドを制するものが商売を制するという新たな時代に突入していくのです。

現代におけるブランド

現代においては、日用品から高級消費財に至るまで、あらゆるジャンルでブランド化が進行し、ブランド名の付いていない商品を見かけることはほぼないというまでの状態になりました。輸送業や外食産業など、無形商材においてもブランド名は重要なものになっていますし、ネットワークや情報機器の普及に伴って通信やITの分野でも新たなブランドが誕生しています。さらに、ブランドの概念は商業の世界を離れ、地域や個人レベルでもブランディングが志向される時代が到来しています。

現代のビジネスにおけるブランド概念の受容と発展については、次回の記事でより詳しくご説明します。