第36回 ブランディングの引き算という考え方

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ブランディングは足し算ではなく引き算である

ブランディングにおいて、既存の商品にない独自の価値を打ち出すことは重要です。そして、まだ世の中にない価値を創り出そうと考えると、人は往々にして既存の何か同士の足し算にばかり目を向けてしまうものです。しかし、複数の要素を欲張って詰め込んだブランドは、確固たるイメージを確立できず大成しないことが多いと言われています。強いブランドを作るために必要なのは、実は足し算ではなく引き算という考え方なのです。

今回は、ブランドの引き算というコンセプトに焦点を当て、ブランドの持ち味を一つに絞ることの意義についてご説明します。

訴求ポイントを絞ることのメリット

スターバックスといえばコーヒーチェーンのブランドであると誰もが知っていますが、実は、1971年の開業当時のロゴには、「COFFEE」「TEA」「SPICES」の文字が躍っています。スターバックスははじめ、コーヒーと紅茶とスパイスを販売する店としてスタートしたのです。1987年からはロゴから「TEA」と「SPICES」の文字が消え、コーヒーだけに焦点を絞ったチェーンに生まれ変わっています。

紅茶とスパイスをメインの商材から外し、コーヒーに絞ったことがスターバックスの飛躍の切っ掛けだと評する人も居ます。確かに、もし同社が三種類の商品を総合的に取り扱う企業であり続けていたら、今日のような繁栄はなかったかもしれません。「スターバックスといえば何の店?」と尋ねられたときに、誰もが即答できる答えを持っているというのは、ブランドとして非常に強い武器になっています。

例えば洋菓子店であれば、巷で人気の店というのは、「チーズケーキが有名」や「フルーツタルトが有名」など何かしらの訴求ポイントを備えているものです。全ての種類のケーキが満遍なく美味しい店、というのでは尖ったブランドにはなり得ません。高級車ブランドのBMWが商用バスなどを生産せず、乗用車にラインナップを限っているのも同様の発想によるものです。強いブランドを確立するためには、要らない要素をそぎ落としていく「引き算」の思考が必要なのだといえるでしょう。

三つの「引き算」の手法

では、ブランディングにおける「引き算」では具体的に何を捨てていけばいいのでしょうか。その手法には、大きく以下の三つがあるといわれています。

①訴求ポイントの引き算

②品揃えの引き算

③言葉の引き算

それぞれについて見てみましょう。

まず、①の訴求ポイントの引き算というのは、ブランドの特長をいくつも並べ立ててアピールするのではなく、本当に注目してほしい長所一つに絞ったブランディングを行うことです。高糖度トマト「アメーラ」の例でいえば、「このトマトはとても甘く、酸味もあり、香りもよく、栄養価も高く……」などとするのではなく、「このトマトはとても甘いトマトです」とまず最初に言い切る。その上で、必要に応じて「それだけではなく、酸味も香りもあって栄養価も高く……」などと情報を追加していくのです。アメーラの強みはもちろん甘さだけではありませんが、敢えて伝えるポイントを一つに絞ることにより、ブランドとして強くポジショニングしているわけです。

②の品揃えの引き算とは、上で見たスターバックスの例のように、前面に出すジャンルを一つに絞ることでブランドイメージの強化を図るものです。「AとBとCを売るブランドです」よりも、「Aのブランドです」と言われるほうがブランドの存在は鮮明に消費者の記憶に残ります。例えば、パナソニックは十分に強いブランドですが、アップルの方がよりブランドイメージは強烈でしょう。これは、白物家電からAV機器、住設家電に至るまで広い商品ラインナップを誇っているパナソニックに対し、パソコンやスマートフォンなど特定の分野に絞った展開をしているアップルの方がブランドとして尖った印象を与えるからです。米国インターブランド社の「ベスト・グローバル・ブランド2012」でも、パナソニックのブランド価値は57億ドルと評価されているのに対し、アップルのブランド価値はその13倍の765億ドルとされています。

最後に、③の言葉の引き算とは、無駄なくインパクトのあるキャッチコピーを打ち出すことです。「ルビンズゴールド」のキャッチコピーは、当初「ゴールドのように輝くフルーツ」というものが考えられていましたが、ブラッシュアップを経て「ゴールドの輝き」にまで縮められました。キャッチコピーを可能な限りシンプルにすることで、言葉の一つ一つが輝きを増し、より強くブランドの魅力をアピールできるようになるのです。

ブランドのシンボルも引き算から生まれる

引き算によるブランディングを進め、余計な要素をそぎ落としていくことで、最終的にはそのブランドの真髄と呼ぶべき要素が浮かび上がってきます。そうして抽出された要素こそ、ブランドを支えるシンボルとなるものにほかなりません。

一説によると、ルーブル美術館を訪れる人の多くは、ルーブルの持つ「世界最大級の所蔵作品数」という特徴と同じかそれ以上に、「モナ・リザという作品一つ」に魅力を感じているといいます。ルーブル美術館自身も「モナ・リザ」を美術館の顔として前面に出しているのは言うまでもありません。ブランド力の源泉を辿っていくと、ただ一つの作品に、世界最大級の作品数に勝る魅力を見出せることもあるのです。

ブランディングにおいては、あの要素もこの要素もと欲張るのではなく、自社ブランドにとっての「モナ・リザ」を掲げてやるというくらいの信念を持って、持ち味を徹底的に切り詰めていくことも大事なのです。