第34回 ブランドを若返らせる情緒的価値

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ブランドの「アンチエイジング」を考える

前回の記事では、「モノからコトへ」という商品の提供価値の転換に触れ、消費者の情緒や感性に訴えかけるブランディングの重要性について述べました。機能的ベネフィットが時代の流れによって力を持たなくなったとしても、情緒的ベネフィットを強く打ち出すことに成功しているブランドは、長く愛されるロングセラーブランドになれる可能性が高いといえます。

いかなるブランドにとっても「老化」は避けて通れない現象ですが、モノではなくコトを提供するという考え方は、ブランドの老化をも克服する武器ともなるのです。

今回は、ブランドの老化という現象と、その対策について考えてみましょう。

ブランドの老化とは?

これまでにも見てきたように、ブランディングの初期段階においては、勝負するカテゴリを絞ることと、ブランド・アイデンティティをブレさせないことが何より重要です。「○○といえばこのブランド」というオンリーワンの存在として認知されるまで、ブランディングは初志を貫徹すべきです。

しかし、ブランドが成功を収めてもなお、当初の在り方にこだわり続けていると、次第にブランドは硬直化し、「老化」を始めてしまいます。

米国のポラロイド社はインスタントカメラの市場において圧倒的な成功を収め、当該カテゴリの代名詞として知られるブランドにまでなりましたが、デジタルカメラへの急激な需要変化に対応できず、2001年には10億ドル近い負債を抱えて経営破綻しました。ポラロイドブランドは現在、他企業への「身売り」を繰り返す形で生き延びています。また、「仮面ライダー」シリーズで知られる東映が時代に合わせた変化を繰り返してきたのに対し、「ウルトラマン」の円谷プロダクションは今世紀の時流に乗ることができず、やはり他企業の傘下に入ることを繰り返してなんとか「ウルトラマン」の制作を続けているという状況です。

時代の流れに応じて在り方を変えることができなければ、どんな老舗ブランドでもこうした事態は避けられないのです。

「モノからコトへ」の転換が若返りのカギ

ロングセラーブランドが老化に陥らず若さを保つにはどうすればよいのでしょうか。

ここで思い出されるのは、以前取り上げた「三ツ矢サイダー」の事例です。2000年代前半には三ツ矢サイダーの売上は大幅に落ち込んでいましたが、積み上げてきた歴史の重さをアドバンテージにするブランド再生に取り組み、目覚ましい復権を果たしました。ブランド再構築の要点は、夏目漱石や宮沢賢治も愛飲した「日本の古きよき味」という要素を前面に出し、安心・安全のイメージを消費者に根付かせたことでした。

三ツ矢サイダーは、サイダーというモノの機能的ベネフィットを大きく変化させることなく、伝統と信頼の飲み物というコトがもたらす情緒的ベネフィットにブランド再生を懸けたのだといえます。「モノからコトへ」という商品価値の転換こそ、ブランドを老化から救う切り札だったのです。

ブランディングの用語では、こうした情緒的ベネフィットを「ブランド・エッセンス」とも呼んでいます。ブランド・エッセンスとは即ち、ブランドの「コト的な定義」にほかなりません。三ツ矢サイダーの例に限らず、長く愛されるブランドには、そのブランドが顧客に提供する「コト」は何なのかという明確なビジョンがあります。ポラロイド社は、インスタントカメラという「モノ」を売ることには長けていても、ポラロイドらしさという「コト」を自ら定義することができていなかったために、硬直化して破綻してしまったのかもしれません。

ブランド・エッセンスをどう定義するのか

ブランディングの順序を整理すると、まずブランドの創立期から成長期にかけては、独自のポジショニングを確立し、何らかのカテゴリにおけるオンリーワンかつナンバーワンの存在になるのを目指すことが第一です。以前の記事で述べた「ゲリラ戦」を開始し、一定の戦果を挙げるまでがこのフェーズにあたります。そして、ブランドが成長期から成熟期に移り変わる頃には、ポジショニングという「モノ」の勝負を超越し、「コト」の勝負であるブランド・エッセンスを定義することに移行するべきです。

ブランド・エッセンスとは、顧客が抱くブランドの「意味性」を記述したものといえます。それは次のような一文を埋めることで定義されるといえるでしょう。

「このブランドは、○○(モノ的定義)だが、私にとっては××(コト的定義)である」

ここで「私」という言葉を用いたことからもわかるように、消費者が思い描く意味性とは、きわめて主観的なものです。基本的には、そのブランドに強い愛着や忠誠心を持っている顧客を想定し、その顧客が思い描いているであろう内容を推測して定義することになります。

例えば、度々取り上げているアメーラ・ルビンズの場合、「アメーラ・ルビンズはミニトマトだが、私にとっては『ルビーのようなフルーツ』である」といった定義ができるでしょう。こうしたブランド・エッセンスをしっかりと定義できているブランドは、老化の宿命からも逃れられる可能性が高くなります。