第22回 模倣されないブランドコンセプト

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ブランディングにおけるゲリラ戦の落とし穴

前回の記事では、ブランディングにおけるゲリラ戦の手法を紹介しました。ゲリラ戦ブランディングにおいて重要なことは、自社よりも大きな競合ブランド一つを「敵」として設定し、その敵の強みを弱みに転換することで、自社ブランドの目指すべき方向性を浮かび上がらせることです。マクドナルドに対するモスバーガーなどは、まさに「敵」の特徴の逆を行くことで独自のブランドポジショニングを成立させた事例でした。

しかし、競合にない新規性を打ち出すだけでは、息の長いブランドを創り出すことはできません。一度はゲリラ戦で独自性を確立できたとしても、ブランディングにおけるもう一つの戦い方である物量戦で大手競合が逆襲を仕掛けてくるからです。自社ブランドのコンセプトが魅力的であればあるほど、大手が巨額のマーケティング投資によってそのコンセプトを横取りしにくる危険性は高まります。

以前の記事で物量戦の戦い方を紹介したときの例を思い出してください。発泡酒の「サントリー・ホップス」、第三のビールの「サッポロ・ドラフトワン」は、それぞれ当該カテゴリーにおける初発ブランドでしたが、後にキリンビールやアサヒビールによってコンセプトを模倣した物量戦を仕掛けられ、後塵を拝してしまいました。

この例に限らず、十分なマーケティング投資を行う体力がなかったために、せっかくの独自性を競合に奪われてしまうケースは少なくありません。ゲリラ戦の方法を取る以上、自社が打ち出す魅力的な新カテゴリーは常に競合からの模倣対象にされていると考えるべきでしょう。

模倣されないコンセプトメイキング

模倣による物量戦から逃れる方法はただ一つ。大手競合が模倣したくても模倣できない領域を築くことです。技術的には真似しようと思えば真似できるが、企業の方針としてそれを行うことができない領域――あるブランディング企業の経営者は、これを「ジレンマの領域」と呼んでいます。

例えばマクドナルドの場合。外食産業にとって、アルコール飲料の品揃えは利益を大きく左右する要素です。しかし、ハンバーガーチェーンであるフレッシュネスバーガーやバーガーキングはメニューにアルコールを入れていますが、マクドナルドはこれを真似することができません。同社の主要顧客は子連れのお母さんですから、アルコールをメニューに入れることでイメージを下げる訳にはいかないのです。

また、ペプシコーラはマイケル・ジャクソンをイメージキャラクターに起用した若者向け戦略で成功を収めましたが、コカコーラは同じ方針を取る訳には行きません。若年層のみならず全年代を主要顧客とするコカコーラにとって、ペプシと同様のキャンペーンを行うことは、若年層以外の顧客を失ってしまうことに繋がるのです。

これらの事例に共通するのは、「物量戦を仕掛けたくても仕掛けられない」というジレンマの存在です。模倣を行うことで、既存のブランドイメージの一貫性が失われ、既存顧客が離れてしまう。そのように競合に思わせることができれば、そのコンセプトは模倣を仕掛けられない聖域となります。ブランディングにおけるゲリラ戦のポイントはこのジレンマにあり、「敵」の強みに潜む弱みを突くというのは、この「ジレンマの領域」に連れ出すことに他ならないのです。

強引な物量戦はブランドを傷つける

ひとたび「ジレンマの領域」に連れ出されると、いかなる大手企業であっても物量戦での逆襲は諦めざるを得ないところです。しかし、それでも強引に物量戦を仕掛けてくるとどうなるか。今までの記事で何度も述べてきたように、ブランドが最も大事にするべきものはアイデンティティの一貫性です。ユニクロの野菜事業の例のように、それまで築いてきたイメージとかけ離れたことに手を出してしまったブランドには手痛いしっぺ返しが待っています。

メルセデス・ベンツは誰もが認める高級車ブランドですが、そのベンツでさえ、若いファミリー向けの安価な「Aクラス」の展開を始めたときは、既存のハイクラスユーザーから大きな不評を買いました。その直後にベンツが究極のラグジュアリー・カーである「マイバッハ」の復活投入に踏み切ったのも、Aクラスの展開で自ら損なってしまった高級感というアイデンティティを取り戻そうとしてのことでしょう。

また、コカコーラはライバルのペプシNEXに追随する形でカロリーゼロのコークを展開していますが、それにより、消費者は通常のコカコーラに何か問題でもあるのかと懐疑的になってしまった一面もあります。先のブランディング企業の経営者は、ビール業界における発泡酒や第三のビールのように、カロリーゼロのコーラ飲料は別のブランド名で出した方がよかったのではないかと述べています。

物量戦は経済的体力のある大企業の特権ともいえますが、大企業といえども既存のブランド・アイデンティティを自ら壊してしまっては競争に生き残れません。物量戦を仕掛けようとするマーケターは、それが自社ブランドの価値を損ねる結果にならないか慎重に吟味する必要があるといえます。

このように、「ジレンマの領域」に踏み込んで物量戦を仕掛けてくることは、競合にとってもリスクがあるものです。「ジレンマの領域」が聖域たりえる所以はここにあるのです。