第23回 ヒーロー番組に見る後発ブランドの戦い

    Posted in: ブランディング講座

模倣されないブランドコンセプトの重要性

ここ数回の記事でご紹介してきたのは、ブランディングにおけるゲリラ戦という戦い方と、大手競合に模倣されないためのコンセプトメイキングの手法でした。自社は物量戦を選択せずゲリラ戦に全てを懸けるとしても、忘れてはならないのは、敵(大手競合)はいつでも物量戦という手段を使えるということです。ゲリラ戦を選択して生き残るためには、大手が真似したくても真似できないコンセプトを工夫して作り上げる必要があるのです。

今回は、2000年代の特撮ヒーロー番組における成功例と失敗例にフォーカスして、模倣されないコンセプトメイキングの重要性を掘り下げてみましょう。

2社の独壇場であった特撮業界

日本のお家芸の一つである「特撮ヒーロー」というジャンルは、マーチャンダイジングを語る上で重要な存在です。特撮番組の制作にあたっては玩具会社がスポンサーに付くのが通例であり、番組に登場するヒーローの人形や武器、合体ロボットなどの玩具の売上が番組の制作を支えています。我が国の50年余に及ぶ特撮ヒーローの歴史は、番組制作会社と玩具会社の連携による高度にシステム化された商業ブランディングの進化の歴史であるとも言えるでしょう。

日本の特撮ヒーローの元祖は1958年の「月光仮面」であると言われますが、エポックメイキング的役割を果たしたのは、円谷プロダクションの「ウルトラマン」、東映の「仮面ライダー」の二大シリーズです。これらの作品の爆発的人気を受けて、1970年代には怪獣ブームや変身ヒーローブームが起こり、各制作会社が競うように特撮ヒーロー番組を世に送り出しました。しかし、「月光仮面」の宣弘社、映画「ゴジラ」で知られる東宝なども複数のテレビシリーズを制作したものの、結局「ウルトラマン」や「仮面ライダー」の地位を脅かすほどのライバルは現れませんでした。

円谷と東映以外の各社が競争から降りていくのと並行して、後に玩具業界大手となるバンダイがこの2社とそれぞれ関係を深め、「ウルトラマン」や「仮面ライダー」のマーチャンダイジング体制を確実なものとします。その後20年以上にわたり、特撮業界は円谷と東映、そしてそれらとタッグを組むバンダイの独壇場となり、他社の参入障壁は非常に高くなっていました。

シェア争いの開幕と早すぎる終焉

特撮業界に新しい動きが訪れるのは2000年代前半のことです。東映の「平成仮面ライダーシリーズ」が隆盛を極めていた2003年、東宝はゲーム業界大手のコナミに玩具開発を任せ、新規の特撮ヒーロー番組「超星神シリーズ」を立ち上げました。円谷か東映以外の制作会社が特撮ヒーロー番組を制作し、さらにバンダイ以外から玩具が商品化されるというケースは当時としては極めて異例であり、ファンの間では大きな話題になりました。この動きに追随するように、2006年には松竹が、「トミカ」で知られるタカラトミーとタッグを組み、「魔弾戦記リュウケンドー」を制作。コナミ、タカラトミーの両社とも、ヒーロー玩具市場におけるバンダイのシェアを崩そうと熾烈なブランド戦争を仕掛けました。

しかし、戦いは長くは続きませんでした。これらのシリーズを評価するファンの声はあったものの、メインターゲットである幼児層の関心を「仮面ライダー」や「ウルトラマン」から逸らすには至らず、視聴率、玩具売上ともに惨敗に終わってしまったのです。

その敗因は、結局、大手と差別化できるだけの明確なブランドコンセプトを打ち出せなかったことに尽きるでしょう。子供受けする変身ヒーローが、子供受けする武器を持ち、子供受けする勧善懲悪のストーリーを繰り広げる。この既存のコンセプトを踏襲したままでは、強固なブランド認知を確立している「仮面ライダー」や「ウルトラマン」の牙城を崩すことはできなかったのです。既存市場に対してゲリラ戦ブランディングを仕掛けず、いわば正攻法で挑んだため、力で勝る先発ブランドに物量戦で潰されてしまったという典型的な事例です。

【ひとり明確なゲリラ戦を挑んだ「牙狼」】

ところが、「超星神シリーズ」や「魔弾戦記リュウケンドー」が既存の特撮シリーズに対して正攻法を挑んでいるさなか、それまでの特撮番組と明確に異なるコンセプトで戦いを仕掛けた番組がありました。2005年、特撮監督の雨宮慶太氏がバンダイや東北新社などの各方面から出資を募って制作した「牙狼(ガロ)」です。特撮ヒーロー番組は一般的に幼児をメインターゲットとしていますが、「牙狼」は大人向けのホラーアクションを標榜し、異例の深夜放送で展開されました。グロテスクな描写や性的な表現も多用した同作は、アクションの出来の良さも相まって、いわゆる「特撮オタク」と言われる層から高い人気を獲得し、大人向け特撮番組という新しいジャンルをひとり切り開いたのです。

ブランディングの観点から「牙狼」が画期的だったのは、番組としてのコンセプトの新しさもさることながら、その後のシリーズの制作費用をパチンコ遊技台の展開によって得るというビジネスモデルを選択したことです。「牙狼」のキャラクターを使用したパチンコ台は大好評を博し、製作委員会は潤沢な制作費用を恒常的に得られるようになりました。また、これにより、牙狼ブランドはいわゆるオタク層だけではなく、パチンコを日常的にプレイするヤンキー的な人々にまで浸透したのでした。

「ジレンマの領域」で戦う「牙狼」

豊富な資金と幅広い知名度を得たことにより、2010年には「牙狼」の新作映画、そして2011年にはテレビシリーズの続編が制作されるに至りました。その後、2016年現在に至るまで、毎年のように映画やテレビシリーズの制作が続いており、実写だけではなくアニメへの進出も果たしています。東映の「仮面ライダー」や「戦隊シリーズ」、円谷の「ウルトラマンシリーズ」以外で、ここまで長期にわたってシリーズ展開を続けることのできた特撮ヒーロー番組は過去に存在しませんでした。「牙狼」は今や、「仮面ライダー」や「ウルトラマン」と肩を並べる人気ブランドの地位を確立したといえます。

これほどの成功を収めることができた理由は、ゲリラ戦ブランディングの手法によって競合との争いを避け、「大手が模倣したくても模倣できないコンセプトメイキング」を一貫して行ったことにあります。子供向けヒーローである「仮面ライダー」や「ウルトラマン」は、「牙狼」のコンセプトを模倣することはできませんし、仮に行ったとしても既存のブランド・アイデンティティを損ねてしまいます。また、マクドナルドにアルコールを置けず、コカコーラが若年層限定のキャンペーンを張れないように、パチンコの展開によって資金源を得るというモデルは子供向けヒーローには使えないのです。

既存ブランドが模倣できない「ジレンマの領域」で勝負をかけること。ゲリラ戦ブランディングにおけるこの鉄則を「牙狼」の事例は教えてくれるのです。