第24回 ブランドコンセプトの陳腐化という宿命

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ブランドコンセプトの陳腐化とは

ここまでの記事で述べてきたのは、ブランディングにおけるゲリラ戦の戦い方と、敵(大手競合)から物量戦を仕掛けられないための対策についてでした。しかし、どんな戦い方や守り方を考えるにせよ、ブランディングにおいて忘れてはならないことが一つあります。それは、ブランドコンセプトというものは、たとえ競合に模倣されることがなくても、いずれは陳腐化してしまうということです。機械に劣化があり、人に老化があるように、これはブランドにとっても避けては通れない運命です。

今回は、ブランドの差別化ポイントの陳腐化と、それを打破するブランド価値について考えてみましょう。

コンセプトの斬新さは永遠には保てない

人類の技術や文化、そして人々の生活様式が絶え間なく進化を続けるものである限り、どんな斬新なブランドコンセプトもいつかはありふれたものになります。例えば、昭和30年代、ネスカフェが日本で初めてインスタントコーヒーを売り出した頃、お湯を注ぐだけで手軽に美味しいコーヒーが飲めるというコンセプトはそれだけで魅力的なものでした。また、夕方にはシャッターを閉めるのが小売業の常識だった昭和40年代末期、朝7時から夜11時まで店を開けているセブン-イレブンはそれだけで衝撃的な存在でした。ユニクロもまた、一つのアイテムを低価格で大量販売するという、それまでの服飾業界に見られなかった斬新なビジネスモデルでヒットした例です。

今ではどうでしょうか。ネスカフェのようなインスタントコーヒーはどこでも見かけるものになり、巷にはそれよりももっと美味しいコーヒーが溢れています。セブン-イレブンのようなコンビニエンスストアは我が国でありふれた存在になり、今日ではスーパーマーケットでさえ24時間営業の店を当たり前に見かけるようになりました。ユニクロのブランドコンセプトも今や我が国のスタンダードになり、イオンのような大手量販店にもユニクロと同様の店構えのコーナーが存在します。

競合が狙って模倣を仕掛けてくるのは当然としても、それ以上に、時代の進歩や消費者の慣れにより、いかなる差別化ポイントもやがては陳腐化してしまうのです。

しかし、ネスカフェやセブン-イレブン、ユニクロは、現在でも順調にビジネスを展開しています。コンセプト自体は今や斬新なものではなくなってしまったのに、なぜこれらのブランドは色褪せないのでしょうか。

斬新でなくなっても選ばれるのが「ブランド力」

あるブランディング企業の経営者は、これらのブランドが今も色褪せない理由はひとえに「ブランド力」にあると述べています。つまり、インスタントコーヒーが一般化した現在においてもネスカフェが売れ続けているのは、それが「ネスカフェ」というブランド名を持っているから。コンビニエンスストアがありふれた存在になった現在でもセブン-イレブンに客足が耐えないのは、それが「セブン-イレブン」の看板を掲げているからだというのです。

味の素ゼネラルフーヅは一時期、自社のインスタントコーヒー「マキシム」を、ライバルであるネスカフェ・ゴールドブレンドの味や香りにいかに近付けるかということを重点に置いて開発を行っていました。商品のポジションをネスカフェ・ゴールドブレンドに近付け、より低価格で販売すれば、消費者はブランド・スイッチングをしてくれるだろうという展望を描いていたのです。しかし、この試みは当たらず、マキシムの販売実績はネスカフェを追い抜くほどには至りませんでした。

皆様にはもうその理由がお分かりでしょう。消費者は純粋にコーヒーの味や香りを買っているのではなく、また価格の安いコーヒーを求めているわけでもなく、「ネスカフェ・ゴールドブレンド」というブランドネームを買っていたのです。

言うなれば、ブランドネームこそが差別化ポイントの陳腐化を解決する手段になるということです。製品が品質的な優位性を失おうとも、世の中の流行りが別カテゴリーに移ろうとも、確立したブランドネームを持っている製品は、それだけで価値あるものとして存在し続けることができるのです。

ブランド名だけでシリーズが成立する事例

前回の記事でヒーロー番組の話を取り上げましたが、長期にわたって展開しているヒーロー番組のシリーズは、ひとえにそのブランドネームの人気によって成り立っているといえます。その最たる例が、東映が制作し、バンダイが関連玩具を販売している「平成仮面ライダーシリーズ」です。

変身ヒーローというコンセプトはとうに陳腐化しており、既存のコンセプトのもとではターゲットである幼児層の人気は得られないというのは、コナミやタカラトミーがヒーロー玩具市場に参入しようとして惨敗した事実からも明らかでしょう。そうした中で、なぜ「平成仮面ライダー」は2016年現在まで続く人気シリーズたりえているのか。それは、「仮面ライダー」という既存の人気ブランドの力を上手く活用しているからに他なりません。

毎年違った作品が制作される「平成仮面ライダーシリーズ」は、それぞれが続編という関係にはなく、基本的には作品ごとに異なるヒーローが出てきて異なる物語を展開します。関連玩具にしても、毎年の作品ごとに全く違った武器や人形が販売されており、知らない人からはとても同一シリーズの商品には見えません。しかし、これらに一括して「仮面ライダー」のブランドネームを付すだけで、作品の内容に関わらず視聴者の興味を引くことができ、玩具の売上も見込める。それが東映及びバンダイが描いているブランド戦略です。

作品の企画段階では、「次回作では『仮面ライダー』の看板を外してもいいのではないか」という声も何度も上がっているようです。しかし、東映上層部やバンダイはそれを許しません。同じ内容の作品、同じデザインの玩具であれば、「仮面ライダー」の看板が付いている方が遥かに収益が見込めると分かりきっているからです。

ブランドネームの大きさこそが、コンセプトの陳腐化をものともせず安定した収益を上げるための唯一最大の武器であることがこの例からも見て取れるでしょう。