第25回 ブランディングと価格戦略の関係

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ブランディングと価格戦略

ブランディングは現代の商業戦略において欠かすことのできない活動です。ブランドコンセプトを差別化し、ゲリラ戦を展開することは、競合との不毛な物量戦を回避して独自の価値を打ち立てることに直結します。そうして確たる価値を打ち立てるに至ったブランドは、コンセプトの陳腐化をも乗り越えてその価値を保ち続けることができます。ここまでの記事をお読みになった方は、ブランディングのこうした意義を既にお分かりのことでしょう。

ところで、話を実際のマーケティングの場に広げてみると、新規ブランドを立ち上げるにあたって必ず考えなければならないのが価格戦略です。競合他社のブランドよりも高くするのか、安くするのか。実は、新規に立ち上げたブランドが上手くいくかどうかの大部分がここに懸かってくる場合もあるのです。

今回は、ブランディングと価格戦略の関係について少し考えてみましょう。

自信のなさがブランドの価格戦略のジャマをする

そもそもブランディングとは、価格競争の回避を大きな目的の一つとして行われる活動でした。特に、物量戦と対極をなすゲリラ戦という戦い方においてはその性質が顕著です。ブランディングにおけるゲリラ戦とは、消費者が初めて目にするカテゴリーを作り上げ、当該カテゴリーにおける最初のブランドを目指すことを意味します。このため、物量戦の場合と異なり、競合よりも安価であることを目指す必要がないのです。

むしろ、競合との棲み分けを行い、独自のブランド価値を打ち立てるのですから、既存のカテゴリーよりも高めの価格設定をしたほうがブランドの信憑性が高まるともいえます。コーヒーチェーンのスターバックス、低反発まくらのテンピュール、またマクドナルドに対するモスバーガーなどはその好例でしょう。

しかし、いざマーケティングの現場となると、こうしたことを理屈の上では理解していても、つい競合ブランドよりも低めの価格設定をしたくなってしまうものです。その大きな理由の一つは、自社ブランドに対する過小評価に他ならないでしょう。「自社の新規ブランドはまだ大したものではないので、競合よりも高くするのは気が引ける」という意識が先行していると、強気の価格設定ができなくなってしまい、結果としてせっかく立ち上げた新規ブランドがなかなか市場の評価を得られないということにも繋がるのです。

100円のリンゴよりも1,000円のリンゴ

あるブランディング企業の経営者は、セミナーに登壇した際によく「100円のリンゴと1,000円のリンゴならどちらを買いたいですか?」と参加者に質問するそうです。90%以上の人が1,000円のリンゴを買うと答えます。100円のリンゴは所詮リンゴ以上のものではないが、1,000円のリンゴは今までに味わったことのない美味しさを期待させてくれるから、というのがその大まかな理由です。

ブランディングにおける価格戦略とは、消費者にこうした憧れを抱かせるものでなければなりません。「既存の競合ブランドに比べて高めではあるが、それでも独自の価値を持ったこれが欲しい」と消費者に思わせてこそ、ゲリラ戦を展開する意義があるといえるのです。

高価格を打ち出すことは、ブランド価値の一側面である「知覚品質」の向上にも繋がります。高価であること自体が消費者に高品質のイメージを抱かせるのです。消費者は価格を見て商品の品質を推測するものであり、価格が高ければ高いほどブランドの価値に期待を抱きます。ましてゲリラ戦となれば、打ち出すのは従来なかった新しいカテゴリーなのですから、消費者には品質を比較する対象がなく、価格を手がかりに推測するしかありません。

ゆえに、ゲリラ戦によるブランディングにおいては、常に強気の高価格設定を心がけることが肝要なのです。品質に見合う価格を付けようという発想ではなく、むしろ価格を通じて知覚品質を作り出そうという発想こそがブランドの価値を確かなものにするのです。

価格競争をも跳ねのける知覚品質

新規に作り出したコンセプトに対し、競合ブランドが模倣を仕掛けてくるのも現代の常。しかし、たとえ競合ブランドが低価格商品で戦いを挑んできても、容易に値下げに踏み切るべきではありません。

アイアイメディカル社が販売するニキビ専用石鹸「アイナソープ」は、石鹸1つで3,000円という高級ブランドですが、競合のAHAクレンジング・リサーチ社がドラッグストアを中心に低価格路線での販売を強化してきた際にも、それに追随して価格を下げるといったことは行いませんでした。その代わり、新ブランド「パンナ」を立ち上げてドラッグストアに投入し、アイナソープのブランド価値と市場シェアを同時に死守することを図ったのです。

業界で初めて角質ケア成分を配合したポンプ型石鹸であるパンナは、競合の840円に対し、1,240円という強気の価格設定に打って出ました。これにより、花王ビオレやユニリーバ・ダヴなど大手の独壇場だったポンプ型石鹸の市場において、価格帯による棲み分けに成功し、順調に売上を伸ばすことに成功しました。もし、競合に倣って安価な価格帯で勝負していたら、パンナは大手ブランドに飲み込まれ、アイナソープのブランド価値までも下がっていたかもしれません。しかし、競合ブランドよりの1.5倍もの高価格で勝負に出たことにより、「それほど高いなら良いものに違いない」と消費者に考えさせ、購買意欲を掻き立てることができたのです。パンナが出てきたばかりの無名ブランドだったこともここではプラスに働きました。見たことのないブランドだからこそ、価格を通じた知覚品質の創出もより上手くいったというわけです。

自社ブランドに自信を持つこと

ブランドの価格戦略について言えるのは、自社ブランドには確たる自信を持つべきということです。「所詮ウチのブランドなんてまだ大したことはないから……」といった弱気な考え方は、ブランドを低価格化の路線へといざない、知覚品質、ひいてはブランド価値を下げてしまいます。

しかし、市場とはおおよそ、本人が設定した価格をしかるべきものとして受け入れてくれるものです。せっかく開発したブランドの価値を自ら損ねてしまうことのないよう、胸を張って強気の価格設定を行うことが大切です。