第27回 効果的なブランド・ストーリーの構築

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あらゆる事業はブランド・ストーリーを持っている

前回の記事では近大マグロの事例を取り上げ、ブランディングが成立するためには発信者自身が自己のブランドに自信を持つことが大事だと述べました。ブランドになるような商品は最初から何か特別な価値を持っているわけではなく、むしろブランド化できるという確信を持って世間にアピールしていくことがブランドに価値を生むということです。

考えてみれば、最初からブランディングを意識して開発されたものであっても、そうではなくても、あらゆる商品やサービスにはそのリリースに至るまでのストーリーが存在する筈です。大企業が全世界で展開している事業であろうと、個人規模の業者が細々とやっている事業であろうと、そこには立ち上げから今日まで事業を続けてきたという努力や工夫の過程がある筈なのです。近大マグロの例がそうであったように、元々は世間に知られることのなかった努力の歴史も、ひとたび視点を変えてアピールすれば立派なブランド・ストーリーになり得るということです。

今回は、ブランド価値を高めるストーリーのあり方について考えてみましょう。

【ブランド価値を高めるストーリーの種類とは】

これまでの実例紹介でも度々出てきた「ブランド・ストーリー」とは、そのブランドの本質を表し、消費者にブランドイメージを抱かせる、まさにブランディング業務の核となるものです。ブランディングにおいては、このブランド・ストーリーを軸にして様々なユニークな要素を派生させ、ブランド価値を上げていくことになります。

ブランド・ストーリーという概念は、勿論ブランド・アイデンティティとも密接に関係しています。ブランド・アイデンティティをブレさせないことがブランディングの鉄則であったのと同じく、ブランド・ストーリーから派生する様々な要素も、あくまでそのストーリーにプラスの肉付けをもたらすものでなければ意味がありません。例えば、ネタの新鮮さと江戸前の技を売りとする寿司屋が、グルメポータルサイトで「清潔感のあるお店ランキング」のトップを取ったとしても、それほどブランド価値の向上には結びつかないのです。

では、ブランドの本質からブレないブランド・ストーリーの組み立てはどのように行うのでしょうか。

商品価値提供ラダーでストーリーを組み立てる

ブランド・ストーリーを効果的に組み立てる上では、「商品価値提供ラダー」という考え方が役に立ちます。ラダーとは英語でハシゴのことです。いくつかの段階のストーリーを、上から下へ、または下から上へ、ハシゴを上り降りするように参照できるのがこのラダーの特長です。

ハシゴの上半分には顧客サイドの「ニーズ(Needs)」の話、下半分には自社サイドの「シーズ(Seeds)」の話が配置されます。ニーズとは顧客の欲求のことであり、ラダーではこのニーズをさらに上下二つに区分します。ニーズの上側、つまりハシゴの最上段に来るのは、顧客の生活全体の充実にまつわる話。このブランドの商品を手にすることで、顧客の日常生活は、そして人生はどう変わるのかを表現するストーリーです。ニーズの下側に位置するのは、商品が消費者に直接提供する価値を表すストーリーです。ブランド価値でいえば、上は情緒的ベネフィット、下は機能的ベネフィットの話だと言えます。

ラダーの下半分に配置される「シーズ」とは、ビジネスの種であり、言い換えれば競合にはない優位性の材料のことです。ニーズと同様、このシーズも上下二つに区分されます。シーズの上側には、顧客が直接体感できる商品の独自性として、独自の製法や技術などの話が配置されます。シーズの下側、すなわちラダーの最下段に来るのは、商品の独自性を支えている、顧客が直接には体感できない独自の志や社内ドラマです。「プロジェクトX」で取り上げられるようなストーリーはこの最下段の部分に相当するでしょう。

これら四つの要素をラダーとして並べてみると以下のようになります。

(最上段)消費者の生活・人生の充実にまつわるストーリー

(二段目)商品が直接提供する価値のストーリー

(三段目)消費者が体感できる商品の独自性のストーリー

(最下段)消費者が体感できない独自の志や社内ドラマのストーリー

このラダーは、上から下に向かって見るときには「なぜならば」の関係、下から上に向かって見るときには「ゆえに」の関係になります。例えば下から順にラダーを見ると、「独自の社内ドラマの存在」→ゆえに→「商品の独自性」→ゆえに→「商品の提供する価値」→ゆえに→「消費者の生活の充実」となるわけです。

ラダーで表すブランド・ストーリーの具体例

ラダーを用いると、商品の開発プロセスなどの話から、その商品が消費者の人生にもたらす価値の話に至るまでのストーリーを一貫して描くことができます。ここでは、P&G社の基礎化粧品ブランド「SK-Ⅱ」を例に、ラダーを用いたブランド・ストーリーの組み立て方を見てみましょう。

まずは最下段に位置する独自の志や社内ドラマについて。SK-Ⅱの独自性は、酵母の発酵がもたらす天然うるおい成分に由来しています。本商品の開発が始まった1970年代当時、過去に使用されたことのある原料ならば、厚生労働省の販売許可は1年以内に下りるのが通例でした。しかし、過去に前例のなかったSK-Ⅱの場合、基礎研究を含めて実に5年もの歳月をかけて商品化に漕ぎ着けたのです。ここにはまさに「プロジェクトX」的な研究員達の熱意の結晶がありました。このストーリーはシーズの基盤としてラダーに配置することができます。

この最下段のストーリーをベースとして、シーズの上側には、本商品が持つ「酵母が生み出すうるおい成分」という特色を置くことができるでしょう。続いて、その上に来る消費者への提供価値としては、「透明感に満ちたクリアな素肌を実感できる」というストーリーが配置できます。そして最上段、消費者の生活全体の充実感にまつわる話としては、「高額であっても、本当に本商品の良さを分かってくれるお客様から愛され続けている」というストーリーを載せることができるのです。

以上の内容を要約するだけで、社内メンバーにもわかりやすく、また消費者にもアピールしやすいブランド・ストーリーをしっかりと打ち出すことができます。特にブランディング業務の初動段階におけるブランド・ストーリーは、ブランディングに関わるメンバーが意識しやすく、スラスラと口から出てきやすいように、簡潔でわかりやすいものにしておくのが好ましいでしょう。