第33回 感情に訴えるブランドの強さ

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モノよりコトをブランディングする

経済の成熟化が進むにつれて、「モノからコトへ」という言葉が聞かれるようになってきました。ブランディングの観点でいえば、これは商品の提供価値が機能的ベネフィットから情緒的ベネフィットに移り変わってきたということを意味します。

消費者1000人を対象にしたある調査では、「トマトの購入にいくらまで払えるか」という質問に対する回答の平均値は335円だったのに対し、「美味しさの感動にいくらまで払えるか」という質問に対しては8,939円だったといいます。トマトというモノの提供と比べ、美味しさの感動というコトの提供には30倍近い価値が認められているということです。

今回はこの話を念頭に置きつつ、消費者の感情に訴えかけるブランディングについて考えてみましょう。

時代は機能的ベネフィットから情緒的ベネフィットへ

最近の記事で述べてきたように、消費者に愛されるブランドを打ち立てるためには、ブランド・アイデンティティやブランド・ストーリー、魅力的な逸話の存在が必要不可欠です。それはつまり、機能が優れているだけで顧客が付く時代は終わったということでもあり、商品の価値の中心が機能的ベネフィットから情緒的ベネフィットに置かれるようになったパラダイムシフトの到来を表しています。

機能やコストパフォーマンスの良し悪しといった、優劣で比較しやすい要素とは異なり、情緒的ベネフィットは突き詰めれば個人の好き嫌いの領域であるため、様々な「オンリーワン」の共存が可能になります。大きなくくりの中で機能競争や価格競争をするのではなく、自身が得意とする領域を作って棲み分けるというブランディングの考え方も、情緒的ベネフィットが重視されるようになった背景あってのことなのです。

情緒的ベネフィットを重視したブランディングとは、言い換えれば、顧客との間に感情的な繋がりを作るということでもあります。例えばルイ・ヴィトンのバッグに強い執着を持っている顧客は、丈夫であるとか、長持ちするといった機能的側面だけでヴィトンを愛しているわけではないでしょう。ヴィトンのデザインが好きだとか、所持していることでステータス感を味わえるなど、ブランドがもたらす情緒的な側面に少なからず感化されてヴィトンを選んでいるはずです。このように、顧客の情緒や感性に働きかけ、感情的な繋がりを構築することが、長く愛されるブランドを作る秘訣の一つでもあるのです。

情緒を刺激するアメーラ・ルビンズ

度々取り上げているサンファーマーズ社の高糖度トマト「アメーラ」も、機能面よりも情緒面にブランドの魅力をフォーカスし、顧客の感性に訴えかけることで成功を収めている事例です。

アメーラブランドのミニトマト「アメーラ・ルビンズ」が、ミニサイズかつ高糖度という従来の商品になかった特徴を打ち出すことでオンリーワンのポジションを築いた商品であることは既に述べました。しかし、アメーラ・ルビンズの勝因は、単にポジショニングがユニークだったことだけではありません。

従来のトマトは、リコピンなどの栄養価をアピールし、消費者の健康志向に訴えかけるものが多かったといえます。対して、アメーラ・ルビンズはブランド設計の時点から徹底して情緒性の追求にこだわり、デザインを重視して消費者の五感に訴えかける方針をとりました。キャッチコピーにも表れているルビーのような赤い輝き、ジェリービーンズを思わせる美しい形状など、見る人の感性を刺激する要素をマーケティングでも前面に出しています。

パッケージのデザインもその一例です。アメーラ・ルビンズのパッケージには、魅力的な色と形状を最大限アピールできるように、透明なプラスチックケースが採用されているのです。このデザインならば、オフィスのデスクにおやつとして置いていても違和感がありませんし、プラスチックケースなので女性がバッグの中に忍ばせていても形が崩れません。このように、情緒をくすぐるブランディングの仕掛けの数々がこの商品には結実しているといえます。

キャッチコピーでも情緒性を訴求

アメーラ・ルビンズのリーフレットには、「ルビーのようなフルーツ。清らかな水と空気で大切に育てました」というキャッチコピーが躍っています。このコピーもまた、機能的側面よりも情緒的側面を重視するアメーラブランドの精神を反映したものといえます。リコピンなどの栄養素や、健康、甘さなどを訴える言葉は一切入っておらず、並んでいるのは瑞々しい自然を思わせる言葉。このコピーを見た消費者は、綺麗な環境で育てられた美しいフルーツというブランドイメージを思い描きます。近大マグロの例でいう「大学産のマグロ」のように、ブランドの背景や逸話を想起させる優れた言葉選びだといえます。

このリーフレットが採用が決まる以前は、「ルビーのようなフルーツ」ではなく「新フルーツ」というコピーが掲載されたバージョンも検討されていたといいます。しかし、確かにアメーラ・ルビンズは従来になかったコンセプトのトマトではあるのですが、新しいか古いかといったことは情緒性とは関係ありません。以前の記事で述べたように、あらゆるブランドコンセプトは、世に出た瞬間から陳腐化が始まっています。今日の新しさは明日の古さでもあるのです。新しさだけでは消費者の感性を動かすことはできませんし、目新しさで飛びついてくれる顧客もいつかは離れてしまうでしょう。この点に気付いたからこそ、アメーラブランドは「新フルーツ」ではなく「ルビーのようなフルーツ」というコピーを最終的に採用したのでしょう。

顧客の感情をしっかり掴むことができたブランドは、コンセプト自体が時代の流れによって陳腐化してしまっても、なお顧客のブランド・ロイヤリティを掴み続けることができるのです。