第21回 ゲリラ戦における『敵』の設定

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American football player being tackled

戦いは「敵」の定義から始まる

前回の記事では、物量戦とゲリラ戦というブランディングにおける二つの戦い方を紹介し、ゲリラ戦で「当該カテゴリーにおける最初のブランド」の地位を切り開くことの重要性を述べました。では、その戦いはどのようにして始まるのでしょうか。

ブランディングにおけるゲリラ戦の肝は、「先発企業が作った市場を敢えて無視し、自社が一番手になれるカテゴリーを自ら作り出すことにのみ専念する」ことでした。そのために真っ先に行うべきは、競合ブランドを具体的に定義することです。一見矛盾するように思えますが、先発ブランドを無視して新たなカテゴリーを築くためには、「誰との違いを打ち出すのか」を明確化する必要があります。独自性とは、比べる相手が存在するからこそ成り立つ概念なのです。

ゲリラ戦によるブランディングとは、競合ブランドを鏡として、新ブランドの独自性を浮かび上がらせることです。この独自性が際立っていて、かつ消費者に魅力をアピールすることができたとき、初めてそのブランドはブランドとしての存在意義を認められ、競合との棲み分けが可能となるのです。

新ブランドの「敵」をどう定義するか

ゲリラ戦における競合ブランド、即ち「敵」の設定には二つの鉄則があります。一つは、自社よりも一回り大きなブランドを想定すること。その方がビジネスソースが広くなりますし、そうしたブランドは既に消費者の間にブランドイメージを定着させていることが多く、自社ブランドを際立たせる鏡としてより役に立つからです。もう一つの鉄則は、競合ブランドを一つに絞り込むこと。周辺の競合をあれやこれやと見渡すよりも、敵を一点に絞り込むくらいの割り切った考え方を取った方がブランドのアイデンティティは際立ちます。

トヨタの高級車ブランド「レクサス」が見据えている「敵」は、同じ国産車の高級ブランドではなく、メルセデス・ベンツです。富裕層が車を購入するときに真っ先に考えるのがベンツだからです。

ちなみに、競合を一つに絞り込むというのは、必ずしも特定の一社のブランドを想定せよということではありません。カゴメの競合ブランドは、同じトマトジュースを販売している競合他社ではなく、牛乳であるといいます。消費者が健康のために飲むものといえば牛乳であり、カゴメのミッションはそれに代わる健康飲料として野菜ジュースやトマトジュースを売り込むことだからです。また、マクドナルドの競合は、同じハンバーガーチェーンであるモスバーガーなどではなく、ファミリーレストランです。家族連れの外食といえばファミリーレストランであり、それに取って代わる存在になることが同社のビジョンなのです。

競合を巨大なものに、かつ一点に絞って想定することで、自社ブランドが展開するべきゲリラ戦の方向性が見えてきます。

敵の強みを弱みに転換する

ひとたび「敵」となる競合ブランドを設定したら、そのブランドの特徴を抽出する作業に入ります。消費者が持つイメージ、宣伝文句、独自の売りなど、競合ブランドにまつわる全ての要素が自社の新規ブランドを映す鏡になります。

例えば、マクドナルドを競合に設定した場合、列挙される特徴は以下のようなものでしょう。

《安価、素早いサービス、マニュアルによる均一的な接客、全世界で一定の味と品質、親子連れへのアピール》

こうして抽出された特徴を見て、ゲリラ戦ブランディングという視点を持たないマーケッターは、「ウチもこうしなければ」と考えがちです。競合ブランドの特徴が全て良いものに見え、自社ブランドの劣った点ばかりが脳裏によぎって、「競合に追随しなければ」という意識が逸ってしまうのです。しかし、それでは自社ブランドは猿真似のマクドナルドもどきにしかなれません。ゲリラ戦はその逆の発想を行くものです。ここで次に行う作業は、競合ブランドの強みにネガティブな解釈を加え、弱みを炙り出すことです。

例えば、「安価」は「低所得者向け」。「素早いサービス」は「作業としての食事、ジャンクフード」。「均一的な接客」は「心の篭もらない流れ作業」。「全世界で一定」は「ワクワクしない」。「親子連れへのアピール」は「大人には不向き」など……。こうして発想を逆転させると、マクドナルドという「敵」の正体は「早くて安いだけのジャンクフードで、子供騙しである」と定義付けることができます。本当にそうであるかはさておき、自社のブランディングの過程においてはそのように考えるということです。

そして、自社ブランドを特徴付けるためには、先程のネガティブな解釈の逆のイメージを目指せばいいということになります。「低所得者向け」に対して「中高所得者向け」。「作業としての食事」は「人生の楽しみとしての食事」、「ジャンクフード」は「美食・グルメ」。「心の篭もらない流れ作業」は「手作りのような温かみ」。「ワクワクしない」は「何かを期待させる雰囲気」。「大人には不向き」は「大人向け・子供には早い」……。こうして逆転させた要素を組み合わせれば、自社ブランドの目指す地点を「やや高価ではあるが、美食的な味わいを十分に楽しめる大人向けのハンバーガーチェーン」と方向付けることができるのです。この方向付けは、ブランドが消費者に約束する価値を表すものという意味で「ブランド・プロミス」とも呼ばれます。

ところで、皆様お気付きかと思いますが、こうしてマクドナルドの逆を行く発想でブランドを確立しているハンバーガーチェーンが実在しますね。そう、ここで述べてきたのはモスバーガーのブランド戦略なのです。

ゲリラ戦略の要点と落とし穴

ゲリラ戦という戦い方は、言い換えれば「戦わないこと」を考える発想だといえます。ブランディングの意義の一つは価格競争を避けることだと思い出してください。ブランドは、独自な存在であればあるほど、価格を下げなくても消費者の購買意欲を刺激することができます。先行する競合ブランドの真逆のポジショニングを狙い、不毛な戦いを避けることこそ、実は最も競争力のあるブランディングなのです。

とはいえ、ゲリラ戦にも致命的な弱点があります。独自のポジショニングによって成功を収めても、大手競合がそのコンセプトを真似し返してくれば一溜まりもないということです。次回の記事では、この逆襲をあらかじめ封じておくための手法についてお送りします。