第18回 ブランドを意識したR25の誌面作り

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読者と広告主、両者に向けたブランディング

前回の記事では、リクルート社の若手男性向けフリーマガジン「R25」の対読者ブランディング戦略を取り上げ、ターゲットセグメントの選定の重要性についてお話ししました。しかし、情報誌の顧客は読者だけではありません。フリーマガジンの事業を継続していくためには、読者の支持を得ることに加え、広告主クライアントからの継続的な出稿も必要不可欠です。ブランディングの観点からいえば、読者からのブランド認知だけではなく、広告出稿企業からのブランド認知も取り付けなければブランドの成功は有り得ないということです。

広告業界を変えた新たなクロスメディア

先の記事で述べたように、R25はM1層(20歳〜34歳の男性)という広いターゲット層を設定し、これまでリクルートが取り込めていなかった大手広告主からの出稿受け入れを狙うものでした。従来なかったタイプの広告主を開拓するにあたり、同社は、自社宣伝部の長年のパートナーであった電通に協業を依頼するという手段に出ることになります。広告業界においてリクルートのライバルと称されることも多い電通にとっても、ネットと紙媒体を縦断するクロスメディアの成功事例を展開することは急務でした。かくして二大メディア企業がタッグを組み、そのことがR25のヒットにおいて大きな役割を果たすことになります。

R25への広告出稿状況は、2004年7月の正式創刊当初こそ好調ではありませんでしたが、しばらくすると「結構読まれているようだ」と気付いた広告主企業から電通への問合せが相次ぐようになります。駅やコンビニエンスストアなどの通勤動線に配布ラックを配置したことは、読者のみならず広告主への早期認知を獲得することにも繋がったのです。

R25が広告主から高い注目を得たのは、単なる雑誌とネットのメディアミックスという点においてだけではありませんでした。紙媒体、交通広告、配布ラックなど様々なメディアを用いて、R25とM1層ビジネスマンとの「コンタクトポイント」を配置することにより、R25はクライアント層にクロスメディアの新たなあり方を提示することに成功したのです。「これまでにない」「新しい」という観点が重要視される広告宣伝業界において、クロスメディアとしてのR25は黒船的な威力を発揮し、同誌の広告誌面には飲食料品、IT、家電、金融、選挙、果ては道路や国税などの官公庁も顔を揃えるまでになりました。

広告手法に新たなブランド価値を与える

R25のブランドコンセプトの一つに、「R25はデラックスなヒマつぶしである」という一節があります。同誌は、広告主の集め方だけではなく、広告の見せ方にも「R25ブランド」の一貫したイメージを与えることに注力しました。広告のスタイルにおけるR25ブランドのアイデンティティとは、一言で言えば「記事と広告の垣根を超える」こと。例えば缶コーヒーの広告でも、一目で広告とわかるような表現ではなく、缶コーヒーについての特集記事のように楽しんで読める誌面作りを目指したのです。こうした手法は読者の支持を受け、またクライアントにも従来なかった価値を提供することに成功しました。

タイアップ記事の方向性は広告の対象物によって様々です。例えばマクドナルドの「100円マック」とのタイアップでは、「GWは小さな大冒険」と題し、編集者がサイクリングの途上でマクドナルドに入るなどする記事を作り上げました。また、映画「バットマン・ビギンズ」の宣伝においては、バットマンが悪役ということに絡め、「悪役を引き受けよう」という企画を入れ込むといった工夫がなされています。こうした事例が続くことで受注は活性化し、「ウチでは他社よりももっと面白くやりたい」と広告主から競うように企画提案が入るようになりました。こうしてR25は、読者市場のみならず、広告主市場に対しても「M1層に有効な活字メディア」というブランドポジションを早期の内から構築することになったのです。

ブランドの価値を丁寧に掘り出すことがカギ

2015年9月、R25は紙媒体としては休刊を発表しましたが、現在もウェブ版に主軸を移して刊行され続けています。ウェブサイトは月間1,000万件ものユニークアクセスと5400万のページビューを数え、スマホ版アプリも2012年時点で59万ダウンロードという驚異的な数字を記録していました。

読者市場と広告市場という二つの層を顧客とするR25ですが、ブランドの構築においては圧倒的に読者の支持が先行していました。つまり、読者視点でのブランド・ロイヤリティが先に確固たるポジションを築いていたからこそ、広告主からの支持を獲得しうるメディアとなることができたのです。先の記事で紹介したようなターゲット層へのリサーチを重ね、その過程で様々なブランディング要素を引き出し具体化してきたことが、広告主企業とのブランド・ステートメントの共有にも繋がったのでした。

内在するブランド価値を当事者自らが丁寧に掘り出し、具現化していくこと。それが短期でブランディングを成功させるカギとなることをR25の事例は教えてくれます。R25ブランドの成立の背景には、ターゲット世代が無意識に求めていたものを汲み取り、広告主と共に親近感と信頼感のあるメディアを一つ一つ形にしていった、丁寧なブランド・マネジメントのプロセスがあったのでした。