第19回 ブランディングの失敗要因

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Failure

ブランディングはなぜ失敗するのか

現代では多くの企業や団体がブランディングの重要性を意識し、様々な戦略を駆使してブランドイメージの向上に取り組んでいます。しかし、その中には大成功を収めるブランドもあれば、失敗を喫してしまうブランドもあります。ブランディングの成否を分ける要素は何なのでしょうか。特に、多大な資金・人材・時間を投じて実施したブランディング戦略が徒労に終わることがないように、失敗の要因は念入りに押さえておく必要があります。

ロバート・ソーベルは、その著書『大企業の絶滅:経営責任者たちの敗北の歴史』(1999, 鈴木主税[2001]訳)の中で、15社の大企業の失敗例を分析し、次のように述べています。

「15社のすべてに共通する要素をあげるとすれば、いずれも成功をおさめたあと、大失敗をしている事実だろう。」

ソーベルの主張は、ひとたび成功を収めたブランドほど、成功の罠とでも言うべきものに嵌りがちだということです。一度はブランドを成功に導いた要因が、状況や時流が変われば今度は失敗を招く原因になってしまうのです。

今回は、以前取り上げたパイオニア社の高級テレビ「KURO」の事例を再び振り返り、ブランディングの失敗要因を一般化してみましょう。

KUROが読み違えた二つの誤算

パイオニアの「KURO」は、低価格化競争が進んでいた2000年代後半の薄型テレビ市場において、時流の逆を行く高級セグメントのブランドをグローバル市場に投入したというチャレンジングな事例でした。高級ブランドの開発において同社が参考にしたのは、自動車市場におけるBMWの存在です。シェア自体は低くとも、競合他社にはない独自性を確立し、プレミアム価格帯における強固なブランドアイデンティティを築き上げているBMW。テレビ市場においてそれに類似する地位を築き上げることがKUROの目標とされました。

しかし、ここには二つの誤算がありました。まず、当該市場におけるプレミアムブランドの成立可能性の問題があります。自動車市場におけるBMWのようなプレミアムポジションを獲得するためには、そもそもプレミアムブランドが形成可能な商品カテゴリかどうかが重要です。ブランドの価値は機能的ベネフィットと情緒的ベネフィットに分かれますが、情緒的側面よりも機能的な特性が優先される商品カテゴリにおいては、プレミアム性を確立することは難しいのです。

冷蔵庫や洗濯機、掃除機といった白物家電市場を考えてみてください。例えばダイソンの掃除機がいかに高級品だといっても、価格が100万円台に達することは有り得ません。この市場における高価格商品はあくまで「比較的高い」というレベルにとどまり、BMWのような差異的な価格プレミアムを提示できる余地はほぼ皆無であると言えるでしょう。KUROブランドの戦場であった薄型テレビ市場もまた、プラズマディスプレイから液晶ディスプレイに移行する過程で大衆化・低価格化が進み、プレミアムブランドを差し込む余地は無くなっていました。この点を読み違えてしまったのが、KUROブランドの第一の誤算だったのです。

第二の誤算は、当該市場の規模に対する自社の事業規模のギャップでした。テレビという巨大市場で戦うには、パイオニアという企業はあまりに小規模すぎたのです。ソニーやシャープのような大企業であれば、新規ブランドが市場に受け入れられるまで、赤字に耐えながらでも事業を継続することができます。しかし、KUROを展開していた2009年当時、パイオニアの営業収入は約5,500億円。ソニーの営業収入(約7兆円)の13分の1でしかありません。身も蓋もない話ではありますが、競争の激しい市場においては、十分な経営資源を持たない企業がプレミアムブランドを育成することは困難なのです。

この二つの誤算は、前者はマーケティング戦略レベルでの失敗、後者は経営戦略レベルでの失敗と位置付けることができます。KUROブランドはコミュニケーション戦略においては一定の成功を収めていましたが、その基盤となる経営戦略とマーケティング戦略の誤算のために、ブランディングが失敗に終わってしまったわけです。

失敗しないブランディングのために

経営戦略、マーケティング戦略、コミュニケーション戦略。この一部にでも読み違いがあれば、折角のブランディングも徒労に終わってしまいます。一般にブランディング手法として紹介され、またこの記事でも主に述べているのはコミュニケーション戦略の部分ですが、それだけでは不十分なのです。

低価格化が進む市場にプレミアムブランドを投入して失敗してしまったKUROのように、市場のニーズに合わないブランドは受け入れられる余地がありません。高級さを売りにするか、安価を売りにするか。男性向けか女性向けか、若者向けか高齢者向けか、独身向けか家族向けか。ブランドの方向性を考える際には、まず、当該市場においてその方向性の商品が受け入れられる余地があるかどうかを慎重に吟味しなければならないのです。

市場規模と企業体力の問題については、一見すると中小企業には救いのない話にも見えます。しかし、そうではありません。ブランディングには、巨額のマーケティング投資によって競合を圧倒する物量戦的な戦い方と、競合と衝突しないカテゴリを自ら創り出すことでブランドを確立するゲリラ戦的な戦い方があるのです。戦法を選び間違えなければ、小規模な企業がブランディングによって大企業に打ち勝つことは十分に可能です。次回の記事では、この二つの戦法の違いについて詳しくご説明することにしましょう。