第16回 ブランドの世界観を活かしたデザイン

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Citroen 2CV

デザインはブランドの柱の一つ

先日はブランドネーミングの手法についてご紹介しましたが、市場が成熟した現代において、ネーミングと並んでブランディングの二本柱となっているのがデザインです。

特に製造業においてはデザインの重要性が高いといえます。従来の日本企業では「品質すなわち機能性」という考え方があり、どの企業も競合より高性能は製品を作ることに心血を注いできましたが、現在のような成熟市場ではどの企業のどのブランドであろうと機能面では大差ありません。機能的ベネフィットだけではブランド価値を主張しきれないということです。そこで重視されるのが情緒的ベネフィット、つまりブランドの独自性を感じさせる「美しさ」や「色気」といった側面です。消費者にとってブランドとは「これを持っている自分は何者なのか」を周囲に示すツールであり、消費者はそこにお金を払いたいと思っているのです。

ダイソンの掃除機の例などを見れば、デザインがいかにブランディングにおいて重要な要素であるかお分かりになるでしょう。1993年に英国で創業した同社は、その後すぐに英国内トップシェアを確保。1998年には日本に進出し、2000年代後半には既に日本国内シェアの約3割を占めるに至っていました。掃除機という成熟市場において、新規参入の同社がこれだけのシェアを勝ち得たのは、ひとえに同社の基本的発想が「審美性」にあったからです。日本のメーカーがダイソンと同様に「吸引力」を謳う掃除機を発売しても、デザイン性という観点では太刀打ちできないわけです。

審美性に優れたデザインとは何か?

審美性がブランドデザインのキーワードになるといっても、果たして審美性に優れたデザインとは何を指すのでしょうか。ブランディングの観点からみた「優れたデザイン」とは、必ずしも「美しいデザイン」や「カッコイイデザイン」を指すわけではありません。これまでの記事でもブランドイメージには一貫性が不可欠であると繰り返し述べてきましたが、そのブランドが持つアイデンティティを見失ったデザインは、いかに美しかったり格好良くてもブランディングとして優れたデザインとは言えないのです。

かつてフランスのシトロエンが展開していた「2CV(ドゥ・シュヴォー)」という車をご存知でしょうか。独創的かつ合理的な設計で、小型の大衆車として非常に人気があり、20世紀の100年間で最も影響力のあった車を選ぶ「カー・オブ・ザ・センチュリー」のベスト26にも入った車です。「かたつむり」の愛称で親しまれたこの「世界一遅い車」は、不格好な外見と言われることもありましたが、そのユニークなデザインには「ふかふかの乗り心地」というコンセプトを実現するためのサスペンションを搭載しているからという必然的な理由がありました。2CVを愛車とする人達にとって、この車は「世界一遅く、不格好な車」だからこそ「カッコイイ」と映ったはずなのです。シトロエンはそうした車を世に送り出すブランドでした。

ところが、プジョーに買収されてからは、シトロエン車はそのユニークな魅力を一気に失ってしまったと言われています。プジョーはシトロエン車の独創的なサスペンションを排除し、猫のように俊敏な足回りで知られるプジョーのサスペンションのコンセプトを持ち込んで、走る楽しさを追究しました。また、量産車としての生産効率も重視されるようになり、外観のデザインこそかつてのシトロエンのようであっても、人によっては「単なる不格好な車になってしまった」との感想を抱くようです。

これは、乗り心地に関するシトロエン・ブランドの世界観をプジョーが十分に理解していないから起きたことではないかと思われます。「ふかふかの乗り心地」を重視するのであれば、スピードや小回りを意識したデザインは相応しくありません。ブランドに合ったデザインを作り上げるためには、そのブランドが持つ世界観への理解が必要不可欠なのです。

ブランドの世界観に立脚したデザインの追求

単純に美しかったりカッコイイだけではなく、ブランドの世界観、言うなれば「ブランドらしさ」に立脚したデザイン。これがブランドデザインにおいて目指すべき地点といえます。

携帯電話の「ディズニー・モバイル」は、機能やサービスではソフトバンクやドコモで売られている普通のスマホと変わりありませんが、外見のデザインによって明確にブランドを差別化した例です。シンデレラのガラスの靴をイメージさせる「シンデレラ・スタイル」など、ディズニーの世界観が強く反映された優れたデザインになっています。これはブランドデザインの成功例と言えるでしょう。

一方、韓国のLG社が「プラダフォン・byLG」を展開していますが、イタリアの高級ファッションブランドであるプラダの世界観がそのデザインに落とし込まれているとは到底言えず、LG社製の普通のスマホにプラダのロゴを入れただけのようなものになっています。これはブランドデザインとして優れているとは言えません。

アップルならではのデザインが光る「マックブック・エアー」や、全商品共通で星マークを入れ込んだサッポロの缶ビールなど、消費者に認められ愛されるブランドは必ずその世界観に結びついたデザインを確立しているものです。ブランディングに関わる者はこのことを意識し、そのブランドならではのデザインを追求しなければならないのです。