第12回 組合組織におけるブランディングの成功例

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Working with flowers

組織形態とブランディング

長期にわたって愛されるブランドを作り上げるためには、「一貫性」を重視したブランディングが必要不可欠であると述べてきました。最近の記事で触れたBMWや三ツ矢サイダーのブランディングは、いずれも全社を挙げてブランドイメージの醸成・改善・定着に取り組み、成功を収めている事例です。

しかし、ブランディングに取り組むのは企業だけではありません。今や、自治体や教育機関、個人までもがブランディングを意識する時代です。それらの主体の中には、一企業のような内部意思の統一が容易にはできない組織もあるでしょう。特に、複数の企業や商店が集まった組合組織の場合、一つのブランドの構築に向けて全構成員の意思を統一することは非常に困難であると思われます。

今回ご紹介する「花キューピット」のケースは、そうした組織の形態ゆえの困難を乗り越え、見事に新たなブランド価値を構築してみせた事例です。

花キューピットの歴史と窮地

花キューピットは、日本国内や海外に花を贈れるサービスとしてその名を知られています。しかし、その仕組みについては詳しくご存知でない方もいるかもしれません。花キューピットの配達システムは、通販のように中央の拠点から直接顧客に物を送るのではなく、全国各地の花屋がネットワークで結ばれることによって成り立っています。送り主が最寄りの花キューピット加盟店で注文を出すと、その店から届け先の最寄り加盟店へと連絡が行き、連絡を受けた店が実際に花を作って届け先に届けるという仕組みです。送り主側の店には紹介料が入り、届け先側の店には実際の花の代金が入るというわけです。

こうした仕組みは、米国ではFTD(Florists’ Telegraph Delivery)として20世紀の初めから既に存在していました。戦後、ある生花店の店主が米国のFTDの存在を知り、日本にもこうした花の通信配達システムが必要になると考え、全国から22名の同志を集めて立ち上げたのが後の花キューピットの母体となる組織でした。以来、順調に加盟店を増やし、この配達システムの名称を「花キューピット」と定めたのが1984年のことです。

しかし、設立当初は画期的なシステムとして始まった花キューピットも、時代が下るにつれてその独自性をアピールできなくなってきました。かつては花を遠隔地に送るためには花キューピットのシステムを利用するしかなかったのですが、宅配便やインターネットの普及に伴い、遠隔地に花を届けることは花キューピットの専売特許ではなくなってしまいました。また、組合の加盟店も年々減り続ける傾向にあり、それが取引額の減少にも如実に現れていました。

こうした現状を打破するため、花キューピットの原型がスタートして50年近くが過ぎた2005年、当時の会長であった佐藤慶喜氏を中心に、現代に合わせたブランディング施策に乗り出すことになったのです。

現状調査とブランディングの取り組み

佐藤氏らが最初に取り掛かったのは、組合始まって以来の大規模なアンケート調査でした。加盟店、組合役員、そして消費者の3つの視点から、現状の花キューピットブランドがどのように見えているのかを抽出したのです。その結果、加盟店が持つ花キューピットブランドへの帰属意識は若年層ほど低くなっていることや、消費者からは花キューピットに対して「伝統」や「誠実」といったイメージが薄れてきていることが判明しました。また、組合役員や職員の意見から明らかになったのは、消費者の「感動の壁」が昔よりも高くなっているという事実でした。宅配網が発達した現代においては、遠隔地から花が届くこと自体には感動が伴わなくなっており、その先のサービスの質を充実させることが必要不可欠だと判明したのです。

こうした調査結果をもとに、ブランディングの方針が明確化されました。それは、「認知度」ではなく、「理解度」や「好感度」を上げていくこと、そして、宅配便やインターネット取引などの競合との差別化を図ることでした。そのためには、ブランドの情緒的な側面にフォーカスを当て、送り先に感動を届けるための活動に注力するべきだという結論が導き出されました。

内部と外部へのブランディングの浸透

佐藤氏らは、ブランディングの方針を加盟店に浸透させていくため、各地で行われる様々な協同組合集会や、年に一度行われる花キューピット全国大会で積極的に講演を行い、花キューピットブランドの新しい考え方や、顧客に提供するべきブランド価値を説いて回りました。加盟店の中にはブランディングという言葉を聞いたことのない人達も多く、「本当にそれをやることは我々のためになるのか?」「ブランディングの方針について行けない組合員はどうなるのか?」といった厳しい質問も飛び交いましたが、佐藤氏らは全ての構成員がブランディングの方針に共感してくれるよう、熱意を持って丁寧に説明を続けていきました。

こうした活動により、次第に組合の中にも活気が生まれ、新たな花キューピットの価値を顧客に向けても宣言していこうという気運が育っていきました。それを受けて、組合では旧来のロゴのフォントやマスコットキャラクターの見せ方を見直し、「こころにとどく」という新しいブランドスローガンも制定して、加盟店の店頭を通じた顧客へのアピールに取り組みました。これらの努力が功を奏し、花キューピットのサービス内容への理解度や、顧客満足度は以前よりも格段に向上してきています。

組合組織のブランディングの秘訣

商店街や企業同士の連合のように、複数の事業主体が集まった組織でブランディング戦略を展開することは困難を伴うものです。一企業と異なり、各構成員が自分の意見を持った集まりだからです。そうした場合においては、しっかりしたリーダーシップや、全構成員の巻き込み、そして「なぜブランディングが我々の組織にとって有益なのか」というロジックに説得力を持たせることが必要不可欠になってきます。

この花キューピットの事例からは、ロジックと熱意の双方を掲げることの重要性を見て取ることができます。強いリーダーシップを取れる人物がブランディングの中心に立ち、熱意と確かなロジックをアピールしていくことで、困難と思われる組織体においてもブランディングを成功させることはできるのです。