第11回 ロングセラーブランドの復権の成功例

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ロングセラーブランドの復権のために

前回の記事では、「一貫性」の追求によってグローバルな成功を収めている例として、BMWのブランディングを取り上げました。BMWに限らず、名だたるロングセラーブランドの多くは一貫したブランド・アイデンティティを掲げ、それを守り続けることによって消費者の信用や忠誠を勝ち得ています。

しかし、長く続いたブランドであっても、時としてその勢いに陰りを見せ、売上が低迷することがあります。そうしたとき、マーケターはブランド力低減を食い止めようと右往左往し、そのブランドが本来持っている重要な強みを放棄して、時代や市場に合わせた新しい要素を追加することが有効だと考えてしまいがちです。ですが、闇雲に新しい要素を取り入れるのはブランディングにおいて得策ではありません。ロングセラーブランドがその力に陰りを見せてきたときこそ、そのブランドが長年培ってきた、競合にはない強みを最大限活かすことを考えるべきなのです。

今回は、アイデンティティを守りつつ、時代に合わせた見事な「復権」を果たしたロングセラーブランドの例として、「三ツ矢サイダー」のケースをご紹介します。

三ツ矢サイダーの歴史と低迷

三ツ矢サイダーは、1884年(明治17年)の誕生以来、実に130年にもわたって売れ続けている日本のロングセラーブランドです。2010年のデータを見ると、炭酸飲料市場で売上高No.2をマークし、透明炭酸飲料での売場シェアは80%を超えているというのですから、その人気と知名度の高さは驚愕に値するといえるでしょう。

しかし、長い歴史と伝統を持つ三ツ矢サイダーブランドといえど、常に順風満帆の道を歩んできたわけではありません。第二次大戦中の砂糖不足による製造休止、戦後の材料不足の中での再出発、1969年に食品業界を襲ったチクロショック、コカ・コーラの日本上陸、そして本体であるアサヒビールの経営不振。数々の危機を乗り越えて現在の三ツ矢サイダーがあるのです。近年でも、2000年前後に大きな売上の減少がありましたが、精力的にブランドの復権に取り組み、2007年頃には見事なV字回復を果たしています。その事例を掘り下げてみましょう。

復権のキーワードは「原点回帰」

三ツ矢サイダーの売上は、1997年の2,870万ケースをピークに減り続け、2003年には1,700万ケースまで落ち込んでしまいました。2004年、アサヒ飲料はこのブランド力の低迷を打開するため、全社の各部門からメンバーを集めて「三ツ矢委員会」と称するプロジェクトチームを結成。問題点や改善策を話し合うことになったのです。

そこで浮かび上がってきた課題は、大きく以下の三つでした。

1)時代背景(健康志向の高まりに伴い、炭酸飲料は消費者に敬遠され、市場規模が加速度的に縮小している)

2)イメージの低下(若い消費者から「古臭い」「昔懐かしい」など時代遅れのイメージを持たれている)

3)歴史と伝統の重さ(ロングセラーブランドだけに、味そのものなど商品の内容を大きく変えることが難しい)

ここで三ツ矢委員会が着目したのは、②と③は課題であると同時に、長い歴史の中で三ツ矢サイダーブランドが築き上げてきた貴重な資産であるということでした。つまり、②や③の要素を、単に売上の伸びを阻害したり斬新な変化を妨げたりする障壁と捉えるのではなく、これらの弱みを強みに転化することによって状況を打破できると考えたのです。「昔からある」という特徴は「安心できる」というイメージに繋がり、「味を変えることができない」という点は「昔から同じ味である」というアドバンテージに読み替えられます。三ツ矢委員会は、売上が低迷している今こそ原点に回帰し、三ツ矢サイダーが積み上げてきた歴史を存分に活用することによって売上を回復させようという結論に辿り着いたのでした。

品質重視を広告でも訴求

三ツ矢サイダーのモノづくりの原点は「安心・安全」にあります。そこで、原点回帰を掲げる三ツ矢委員会が最初に取り組んだのは、商品の価値を一層高めるための品質の向上でした。材料である水の硬度の統一や、果実成分由来の香料の使用などで品質を改善するとともに、広告宣伝活動においても「品質」を積極的にアピールすることにしました。

それまで、清涼飲料の業界では、飲み心地の爽快感などを前面に出した「情緒的・共感型」の宣伝を打つのが一般的であり、品質を訴求した広告はあまり例のないことでした。三ツ矢サイダーは、メインターゲットである中高生向けには従来の「情緒的・共感型」のアピールを行いつつ、小中学生くらいの子供を持つ主婦層を新たにターゲットに据え、そちら向けには品質訴求型の広告を展開することにしました。品質訴求の内容としては、「古臭い」という印象を「日本の伝統的な飲み物」とプラスのイメージに転換し、夏目漱石や宮沢賢治が愛飲していたというストーリー性を「安心・安全」に絡めて、日本の風景という文脈を作り上げることに注力しました。

こうしたブランディング戦略の転換により、ブランドイメージは徐々に改善され、売上も2005年には2500万ケース、2007年には3000万ケースを突破。目覚ましい復権を果たしたのでした。

三ツ矢サイダーが復権できた要因とは?

三ツ矢サイダーのブランド再構築が成功した要因は何だったのでしょうか。

第一に、商品を大きく変えることなく、品質の向上に集中したことが挙げられるでしょう。ブランドの本質的な部分を変えるのではなく、新しい情報(ここでは「品質」)を刺激として付け加え、時代の流れに合わせてブランドイメージを再生すること。言い換えれば、ブランドが本来持っている強みを強化して、消費者のトレンドとマッチングするブランドに生まれ変わらせたことが勝因だったといえます。

第二には、日本的なイメージの訴求に努めたことです。本来は海外の商品という印象の強い炭酸飲料ですが、三ツ矢サイダーは、漱石や賢治が愛飲していたというストーリー性、少年が田舎で夏休みを過ごす姿を描いたTVCMなどを効果的に利用し、「長く飲み継がれている国産品」というイメージを強く消費者に印象付けました。このことが、世代を超えた消費者の間に「安心・安全」のイメージを醸成するのに一役買ったことは間違いありません。

この二つの要素に、老舗ブランドの再生に必要な全てのヒントが詰まっていると言ってもよいでしょう。長年語り継がれてきたブランドストーリーを活かし、原点を大事にしたブランディングで消費者の心を掴み直すこと。それこそが、ブランドが長く愛され続けるための秘訣だといえるのです。