第10回 一貫性によるブランディングの成功例

    Posted in: ブランディング講座

new bmw 2 series headlight

「一貫性」はブランディングの命

電化製品、飲料品、高級消費財……。世の中で成功しているブランドは数多くあり、ブランディングの手法もその数だけあるといっても過言ではありません。しかし、いかなるブランディング戦略を取る場合でも、必ず守らなければならないものがあります。それはブランド・アイデンティティの一貫性です。

以前の記事で述べたように、ブランド・アイデンティティとは、そのブランドが象徴する普遍的な価値やイメージを表すものです。これはいかなる時代や状況においても不変のものでなければならず、ここがブレるとブランドは迷走し、その価値を失ってしまいます。

ここでは、ブランドの一貫性を堅守することでグローバルな成功を収めている代表例として、BMWのケースを見てみましょう。

BMWの一貫したアイデンティティ

BMWは誰もが知るドイツの高級自動車メーカーであり、日本国内でもメルセデス・ベンツと並ぶ人気や知名度を誇っています。そして、世界に高級車と呼ばれるブランドは数多くあれど、BMWほど明確なアイデンティティを持った車は他にないと言っていいでしょう。

現在のBMWの源流となる「BMW303」が世に出たのは1933年のことですが、この時点で既に、全てのBMWモデルに共通してみられる「キドニーグリル」という外観的特徴が採用されています。これは、「道を走っていても、見る人が一目でBMWと分かる特徴を持たせるべきだ」というトップの哲学から生まれたものだと言われています。また、1961年には、機能面において現在のBMWの原型といわれる「BMW1500」が誕生していますが、この車体には、キドニーグリルは勿論のこと、車体の重量を前半分と後半分におよそ均等に配分する設計や、操舵性重視のサメが睨みつけるような外観デザインなど、現在のBMWに通じるブランドエッセンスが全て凝縮されています。そして、今日に至るまで、こうしたBMWのデザイン的アイデンティティは一度もブレていないのです。

独自のアイデンティティを誇っているということは、それを好きになった人には代替品がないということです。多くの自動車メーカーが、より幅広い顧客に好かれようとしてアイデンティティを希薄化させていく中、BMWはその逆を行く手法でアイデンティティを明確化し、顧客のためにそれを守り続けています。これこそ、全世界での好調な売り上げを支えている要因だといえるでしょう。

BMWというブランドで売れる車を作る

BMWのブランディングの一貫性は、車の機能面にも表れています。BMWは、車の前部にエンジンを積み、後輪駆動で走る「FR(フロントエンジン・リアドライブ)」という形式を全てのモデルで採用していることで有名です。この方式は車体のバランスや静音性に優れており、BMWは「車にはこの駆動方式が最も理想的である」として、その他の方式の車は生産していません。

そんなBMWは2004年、「1シリーズ」というモデルでコンパクトカー市場に参入を果たすことになります。コンパクトカーのクラスではそれまで、前輪駆動で走る「FF(フロントエンジン・フロントドライブ)」という形式が常識とされてきました。コンパクトカーは室内空間に限りがあり、FR方式を採用すると必然的に室内が狭くなってしまうためです。BMWが長らくこのクラスに参入してこなかったのは、アイデンティティであるFR方式を曲げてまで車を作る必要性を感じていなかったからでした。

しかし、満を持したBMWの「1シリーズ」投入時に業界中が驚いたのは、「コンパクトカーはFF」という常識を覆し、このクラスでもFR方式を採用したことでした。BMWの狙いは、「1シリーズ」を切っ掛けにユーザーにFR車の魅力を知ってもらい、上級クラスへの乗り換えをしてもらうことにありました。そのため、BMWという車の特徴を理解してもらうことが何より大事であり、FR仕様を貫くことは必須だったのです。

BMWの発想は、少しでも売り上げを増やすために売れるものを作るという考え方ではありません。あくまでもBMWというブランドで売れる車を作るという発想なのです。この信念が常に一貫しているのがBMWの長所であり、全ての企業がブランディング戦略において目指すべき理想の姿であるといえます。

ブランドの価値支援活動

BMWはまた、ブランド・アイデンティティを形成し守っていくための価値支援活動にも力を入れています。BMWのブランドは、実に10ものプロセスにより強固に守られ、一貫した価値を保ち続けているのです。そのプロセスとは以下のものです。

1)商品ラインの絞り込み(バスなどの商用車にまで商品ラインナップを広げることはせず、一線を引くことでブランドイメージの拡散を防ぐ)

2)マスターブランド体系の採用(あらゆるコミュニケーションの主軸に「BMW」の3文字を据え、個性のある車名ブランドは冠さない)

3)ブランドシンボルの一貫性(創業以来、一貫して同じシンボルを使い続ける)

4)キドニーグリルの一貫性(フロントマスクのキドニーグリルを踏襲し続け、見え方に一貫性を与える)

5)スローガンの一貫性(各国で表現は異なるものの、ブランドの神髄はブレていない)

6)コミュニケーションの一貫性(ホームページやパンフレット、ダイレクトメール、名刺や封筒に至るまで一貫したデザインを維持する)

7)ブランドアカデミーの開催(インナーブランディングへの投資)

8)ディーラー網の整備(どこのディーラーでも同じBMWの世界観が体験できるよう、あらゆる設備に一貫性を持たせている)

9)ドライバーズスクールの開催(安全運転啓発活動を行い、同時にBMWの性能を頭で理解してもらう)

10)アプルーブドカー制度の導入(認定中古車を「アプルーブドカー」と名付け、ユーザーに後ろめたさを感じさせずブランドイメージも損なわれない中古車流通を実現)

これらの価値支援活動は、ソフト面でのブランドマネジメントの実践であり、情緒面での価値作りとも言い換えられます。こうしたブランドマネジメントの仕組みこそが、BMWをBMWたらしめているのだと言えます。

独自性のあるブランドコンセプトを持ち、車を通してそれを実現し、またその仕様を守り続ける仕組みを持っていること。「一貫性」の一言に集約されるこうしたブランディング手法により、BMWは時代の流行やトレンドに流されることなく、世界に冠たる高級車ブランドとしての地位を確立し続けているのです。