第69回 ブランディングの心

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Light bulb concept

ブランドが人々にもたらす価値

 これまでの記事では、様々なブランドの成功例や失敗例を通じ、ブランディングの本質や手法に迫ってきました。
 多くの商品や情報がひしめく現代にあって、ブランドの果たす役割は以前にもまして拡大しています。ブランドの力があればこそ、消費者は多くの商品の中から適切なものを選択し、安心した購買活動を行うことができるのです。

 さらに、ブランドは消費者の意思決定を助けるのみならず、品質を超えた情緒的な価値をも与えてくれます。ブランドを選択することは、その人自身のアイデンティティを選択することでもあります。

 「ブランディング講座」の結びとなる今回は、改めてブランディングの要点を振り返り、ブランドの構築と運営に携わる全ての主体が意識するべきポイントをおさらいしましょう。

個性を絞ったブランディング

 そもそも、ブランドという概念は、自己の所有物と他者の所有物を区別するために押した焼印(ブランド)が始まりでした。時を経た現代においてもブランドの役割は変わっていません。ブランドの本質は「特異性」にあるとアル&ローラ・ライズも述べているように、ブランディングにおいては、競合と異なる個性をいかに打ち出せるかに全てがかかっています。

 ブランディングは、激化する価格競争から脱し、「高くても売れる」状態を実現するための取り組みであると説明されることもあります。競合と同じ特徴しか備えていないのであれば、結局は価格勝負ということになってしまいます。しかし、真に独自のポジショニングを成立させることができていれば、もはや価格を比べられる競合そのものが存在しません。

 そして、ひとたび個性を打ち出すことに成功したら、そのポジションを大事に守り、安易なライン拡張に手を出さないことも重要です。企業として複数の商品カテゴリーに進出する場合は、全ての商品に同じブランド名を冠するのではなく、カテゴリーの性質に適した新ブランドを新たに送り出すことをライズも勧めています。

一番手を目指すブランディング

 特異性を打ち出すということは、即ち、特定のカテゴリーにおける一番手を目指すことを意味します。情報化の進んだ現代の市場においては、カテゴリーのトップブランドであることはそれだけで強い意味を持ち、「トップであるがゆえに顧客が増える」「顧客が増えて更にトップの地位が盤石になる」という正のスパイラルが形成されます。例えば「三ツ矢サイダー」や「揖保乃糸」などは、たゆまぬブランディングの努力により、それぞれのカテゴリーのトップを独走し続けているブランドといえます。

 しかし、新たに現れたブランドが、既存競合からカテゴリーのトップの座を奪うことは容易ではありません。そこで重要になるのが、既存の土俵で戦うのではなく、自らが一番手になれる独自のカテゴリーを創り出すという考え方です。「特異性」を求めるというブランディングの基本はここに直結しています。例えば「近大マグロ」は、昔からの産地ブランドが力を持つ海産物というカテゴリーにおいて、「大学発の完全養殖マグロ」という全く新しい個性を打ち出すことでオンリーワンの地位を確立しました。今後、仮に他の大学が養殖鮮魚のブランドを立ち上げたとしても、「近大マグロ」の地位を脅かすことはできないでしょう。

 一番手を目指すとは、既存の競合に真っ向から挑むことではなく、自らがオンリーワンになれるカテゴリーを創り出すことを意味するのだと忘れないでください。

消費者に寄り添うブランド価値

 ブランディングを志向する企業が常に忘れてはならないのは、ブランドの価値は送り出す側にあるのではなく、あくまで受け取り手である消費者の頭のなかに存在しているということです。顧客のことを考えていない「独りよがり」のブランドが成功したためしはありません。

 企業は、消費者が自社ブランドをどのように認識し、どのように受容してくれているのか、常に把握する努力を怠ってはなりません。ブランドが既に消費者の間で一定の価値を確立できているのであれば、その軸をブレさせず、消費者の信用や期待に応え続けられる形でブランドを進化させていくことが大切です。

 ときには、時代の流れや人々の意識の変化によって、ブランドの属する商品カテゴリー自体が存続の危機に晒されることもあります。それでなくとも、斬新な着想というものは、時を経れば陳腐化していくことから逃れられません。そのような時こそ、ブランドの本質を守りつつ、時代時代の消費者に合わせた形へとブランドの在り方を変容させていくことが必要です。守るべきものと変えるべきものの領域を見誤らないことこそ、長期にわたってブランドを存続させるための鉄則といえるかもしれません。