第68回 法則編(20)特異性の法則

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ブランドの本質は特異性

 今回は、アル・ライズとローラ・ライズの共著「ブランディング22の法則」から、最後の章となる「特異性の法則」を取り上げます。ブランドの本質は「特異性」にあり、特異性を欠いたブランドはやがて疲弊して競争力を失っていく定めにあります。ブランド名と特徴が消費者の頭のなかで結びついていてこそ、ブランドは市場において価値を持つことができるのです。

法則22. 特異性の法則

 ここまで、様々な観点からブランディングの成否を分ける要素を見てきましたが、ライズがその締めくくりに据えたのが「特異性の法則」です。ブランドの最も重要な側面は、一つのものを追い求めるひたむきさであるとライズは述べています。市場の他の商品と区別しうる明確な個性、すなわち「特異性」を欠いてしまったブランドは、いずれ疲弊し、競争力を失ってしまいます。

・シボレーとは、大型または小型で、安価または高価な、乗用車またはトラックである。
・ミラーとは、レギュラーまたはライトまたはドラフトの、安価または高価なビールである。
・マッキントッシュとは、家庭用またはオフィス用の、安価または高価な、パソコンまたはパソコンのOSである。

 上記のように、アイデンティティとなるべき特異性を失い、なんでもありのラインナップを掲げてしまったブランドは、もはや衰退の道を辿るしかありません。これらのブランドは今日でも生き延びてはいますが、ライズによれば、それは競合各社の盛んなライン延長(という失敗)に助けられてのことに過ぎないといいます。

特異性こそブランドの機能である

 ブランドが社会において重要な機能を果たすのは、その特異性によってのことです。いわば、ブランドとは、普通名詞に代わって使うことのできる固有名詞であるともいえます。

・「輸入ビール」という代わりに「ハイネケン」を注文する。
・「高価なスイス製腕時計」という代わりに「ロレックス」を注文する。
・「走りのいい車」という代わりに「BMW」を注文する。

 このように、ある特徴といえばこのブランド、あるブランドといえばこの特徴、と消費者の中で結びつく特異性を備えたものこそ、真に力のあるブランドといえるでしょう。
 ライズは最後に、「ブランドとは何だろう」との設問に対し、「顧客の頭の中にあなたが所有するただ一つのアイデアないしはコンセプト」であると答えを返しています。ブランドとはこれほどまでに単純なものであり、同時にこれほどまでに厄介なものでもあるのです。

「22の法則」の意義

 ブランドの力は長らく謎のベールに包まれていました。機能的にはほぼ差のない商品が、特定のブランド名を冠しただけで、ノーブランドの商品の何倍もの値段で売れていく――。本書「ブランディング22の法則」は、監訳者の片平秀貴氏によれば、その「謎」に対する挑戦の書であるといいます。ライズ親子は本書において、従来のマーケティングの常識を覆し、ブランド構築のメカニズムが実は謎でも何でもないことを明らかにしたのです。

・良い商品が競争に勝つという「品質・機能至上主義」。
・一定のパイの中で各社がシェアを奪い合うという「市場占有度的発想」。
・ブランドを拡張することが成長に繋がるという「拡張主義」。
・競合他社のヒット商品を模倣しなければ遅れを取るという「物真似症候群」。
・短期の売上増大が長期的成長を損なうことはないと信じる「近視眼的発想」。

 本書以前に信じられてきたこれらの「常識」が、実はいかにブランドの価値を傷付けるものであったかを、ライズは繰り返し述べています。

 そして、常識を破壊したあとにライズが主張するのは「一番手になること」です。既存の市場で一番手になることが難しければ、自らが一番手になれる独自のカテゴリーを創り出すこと。それこそが、ブランディングを成功へと導く唯一無二の道であるといいます。ライズが本書で掲げた多くの「法則」は、そのほぼ全てが、独自のカテゴリーを創り出すため、そして一度創り出したカテゴリーを自ら壊してしまわないための工夫に直結しています。この連載で触れてきた様々なブランディングの手法も、元を辿れば全てはこのライズの主張に端を発しているといっても過言ではないでしょう。

アル・ライズ&ローラ・ライズの偉業

 「ブランディング22の法則」は、アル・ライズとローラ・ライズの親子の共著によっています。父のアルは「ポジショニング論」で知られたマーケティング界の重鎮であり、娘のローラも長年にわたって父と共にビジネスコンサルティングに携わってきた敏腕コンサルタントです。

 彼らの共著には、「インターネット・ブランディング11の法則」(2001年)、「ブランドは広告でつくれない」(2003年)など、従来のマーケティングの常識を覆した画期的なものが数多くあります。「22の法則」をお楽しみ頂けた方は、機会があればぜひ他の著書にも手を伸ばしてみてください。