第67回 法則編(19)寿命の法則

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ブランドの寿命

 人間と同じく、ブランドにも寿命による死期が必ず訪れます。今回はアル・ライズとローラ・ライズの共著「ブランディング22の法則」から「寿命の法則」を取り上げ、ブランドが寿命を迎えてしまう理由や、そうなってしまった際に企業が取るべき対応について述べます。

法則21. 寿命の法則

 ライズは「ブランディングの法則」を不滅のものと言い切りますが、ブランドそのものは不滅ではありません。新たな技術や概念が市場に生まれ出ることで、数々の新しいブランドが勃興する一方、旧世代のブランドは役目を終えて死滅していきます。ライズはこうした市場の営みを「まるで人生そのもの」とたとえ、こうした動きに逆らうべきではないと述べています。

 あらゆるブランドには、投資すべき時期、刈り取るべき時期があり、最後には眠りに就かせるべき時が訪れます。そして、ブランディングの本質を理解すれば、古くなったブランドを安楽死させるべき時期も自ずと分かるはずだというのです。

ブランドにも引き際が重要

 企業にとって、手塩にかけて育ててきた自社ブランドの死滅を見届けることは酷な決断かもしれません。現にライズによれば、多くの企業が、古くなったブランドの「引き際」をわきまえることができず、その救済に何百万ドルもの資金を投じてしまっているといいます。しかし、ブランドの「寿命」が宿命である以上、そうした延命措置が実を結ぶことはありません。

 企業が資金の使い道を誤ってしまうのは、ブランド価値の二つの側面を区分けできていないためだとライズは述べています。その側面とは、「そのブランドはどのくらいよく知られているか」、そして「そのブランドは何を表しているか」の二点です。

 何物であるかがハッキリしていないブランドは、たとえブランド名だけがよく知られていても、市場で値打ちがあるとはいえません。一方、何であるかを明確に打ち出すことができているブランドは、知名度がそれほど高くなくても価値を持ちえます。何であるかがハッキリしているブランドなら、ブランドに対して何らかの手を打ち、強力なブランドを創造する機会もあるのです。

引き際を誤ったブランドの末路

 2012年、写真フィルムの首位ブランドとして知られた米国のコダック社が連邦倒産法の適用を受けたことは大きなニュースになりました。コダックほどの大企業が簡単に倒産してしまうことは、日本人にはにわかに信じがたい事態でしたが、ライズは1990年代末に執筆された本書で既にコダックというブランドの行く末を予言していました。

 アナログフィルムからデジタルカメラへと写真の本流が移り変わる中、同社は、フィルム事業に生じた穴を埋めるために、ビデオテープのカセットに「コダック」のブランド名を付けるという手に出ました。しかし、こうした試みがブランディングにおいて無意味であることは、これまでの「法則」で見てきた通りです。消費者にとって写真フィルムのブランド以外の何物でもなかったコダックが、いきなりビデオテープ事業に参入したところで、既存の競合ブランドに打ち勝つ力があるはずもありませんでした。

 さらに、コダックはデジタルの領域においても同じ過ちを犯しています。ブランディングの法則に則れば、同社がデジタルカメラの分野に進出するなら、「コダック」の名とは異なる新たなブランドを立ち上げるべきでした。しかし、コダックは長らく同社を支えた看板の呪縛から逃れることができず、「コダック・デジタル・サイエンス」の名でデジタルカメラ市場に参入したのです。

 コダックがデジタルカメラを売り出したとき、市場にはキヤノン、ミノルタ、シャープ、ソニー、カシオなど、既にデジタルの世界で評判を取った競合ブランドがひしめいていました。ライズは本書において「まず(コダックの)成功は望めないだろう」と書いており、事実、同社は彼らが予言した通りの末路を辿ることになりました。

市場の原則には抗えない

 革命的な新しい商品カテゴリが市場に現れた時には、革命的な新しいブランドが勝利するのがお決まりだといいます。電子製品の小型化が技術的に可能になったとき、市場で勝利を収めたのはそれまでの主要ブランドであったゼネラル・エレクトリックやRCAなどではなく、全く新しいブランドとして登場したソニーでした。また、米国にレンタルビデオという新しい事業形態が現れたとき、勝利したのはそれまでに店舗網を張り巡らせていたスーパーマーケットやドラッグストアのチェーンではなく、ブロックバスター・ビデオという全く新しいブランドでした。

 いかに旧来のブランドが優れたものであったとしても、こうした市場の動きに抗って永久的に存在し続けることはできません。自社ブランドが寿命を迎えてしまったときには、古いブランドは潔く安楽死させ、市場に対応した新たなブランドの創出に資金を投じるべきだとライズは述べているのです。