第66回 法則編(18)変更の法則

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ブランドに変更を加える場合

 ブランドには一貫性が重要ですが、時としてブランドに変更を加えることが必要になる場合もあります。今回はアル・ライズとローラ・ライズの共著「ブランディング22の法則」から「変更の法則」を取り上げ、ブランド価値を損ねることなく変更を加えられるケースや、その手法について紹介します。

法則20. 変更の法則

 ブランディングにおいては「一貫性」と「絞り込み」が何より重要であることは、この法則編でも再三にわたり述べてきました。しかし、いかなるものにも変化は起こり得ますし、時代に合わせて形を変えなければ生き残れないビジネスもあります。そうした事態を見越し、ライズが「ブランディングの法則」の最大の例外として用意しているのが、今回紹介する「変更の法則」です。

 ブランドの価値が消費者の頭の中に存在しているように、ブランドの変化もまた、自社内ではなく消費者の頭野中で起こるものです。したがって、ブランドに変更を加える際には、消費者に視線を向けることが必要不可欠です。

 ライズは、ブランドに変更を加えうる状況として、以下の三通りを挙げています。
 ①ブランドが弱体であるか、消費者の頭の中に存在しない場合
 ②ブランドの価格帯を下げて利益を確保する場合
 ③ブランドが旨味の乏しい市場にあって、いずれは変化が起こりそうな場合
 以下、それぞれについて詳述します。

薄弱なブランドを再出発させる

 ライズが挙げた状況の一つ目、ブランドが現に消費者の頭の中に定着していない状態というのは、ブランドに変更を加えることが最も容易いケースといえます。何しろ、そのブランド名は未だ消費者の中で特定のイメージと結び付いていないのですから、いかようにでもブランド名を処理できます。場合によっては、全く異なるカテゴリーの、全く異なる商品に、既存ブランドの名前を転用することすら考えられます。

 かつて「インテル」はD-RAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリー)のブランド名でしたが、今やそのことを知っている人はほとんどいないでしょう。同社は新製品であるマイクロプロセッサーに消費者の意識を集中させるため、インテルの名を冠したD-RAMを自ら市場から締め出すという画期的な行動を取ったからです。これが功を奏し、「インテル」は世界一名を知られたマイクロプロセッサーのブランドとなりました。

 このように、優れたブランドネームと思えるものが市場で埋没してしまっている場合、他商品にその名を冠することでブランドネームをサルベージするという手段も有効なのです。

ブランドの価格帯を引き下げる

 ライズが挙げる第二の状況設定は、ブランドの価格を永続的に下げるケースです。「永続的に」という部分が肝ではありますが、手法を間違わなければ、ブランドの価値やイメージを損ねることなく、ブランドの価格帯を引き下げることが可能です。煙草の「マルボロ」が市場シェアを伸ばしたのは、価格の引き下げが功を奏したためでした。

 一方、ブランドの価格帯を上げることには多大な困難が伴います。「サブブランドの法則」の記事で紹介した「ホリデーイン・クラウンプラザ」のケースでは、安価を売りにしている「ホリデーイン」の名を冠したまま高級ホテルのサブブランドを打ち出すことが難しく、最終的にブランド名から「ホリデーイン」の名を削ることでようやく「クラウンプラザ」を高級路線に乗せることができました。

 高価なブランドが安価になることは消費者にとってメリットがありますが、逆の変更は困難であるというのは、自然に理解される話であるかと思います。

忘却を利用してブランドを変える

 ライズが挙げる第三のケースは、「忘却」という自然現象を利用するものです。

 米国を代表する銀行であるシティバンクは、1970年代には、取引の80%が法人向け、20%が消費者向けであったといいます。しかし、ライズが本書を執筆した1998年頃には、この割合はほぼ逆転し、30%が法人向け、70%が消費者向けになっていました。同社はブランドを法人向けから個人向けに転換させてきたわけですが、ここで重要なのは、顧客の頭の中ではほとんど「変化」は起こっていないことです。シティバンクは、顧客の頭を変えるかわりに、忘却が起こるまで時間を掛けてきたのです。

 ライズは、コンピュータや家電のような流れの速い分野では、忘却が発生するほどの時間的余裕がなく、この方法は使えないだろうと述べています。銀行業界のような特殊な市場においてのみ使用できる方法だということです。

消費者を無視した変更はリスクを伴う

 序段で述べたように、ブランドの変更はあくまで消費者の意識に寄り添ったものでなければなりません。消費者の頭の中にブランドが存在しない場合は、ブランドに変更を加えることは一つの選択肢になり得ます。しかし、既にブランドが消費者の中で重要な位置を占め、ユニークで明白な認知を得ているのであれば、敢えてブランドを変更することには多大なリスクと困難が伴います。

 ケンタッキー・フライド・チキンは、長らく「フライドチキン屋」からの脱却を試み、店名を略称の「KFC」に変更したり、ロティサリー(炙り焼き)チキンをフランドチキンに代わる健康的なメニューとして売り出すなどの工夫を行っていました。しかし、フライドチキンを求めて店を訪れる顧客の意識は遂に変わることはありませんでした。結局、同社はブランドの転換を諦め、再びフライドチキンをメインに据えたプロモーションを行うようになっています。

 このような、既に消費者の頭の中に相当な価値を有しているブランドに関しては、変更は決してお勧めできないとライズは述べているのです。