第65回 法則編(17)一慣性の法則

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一貫性を保ったブランディング

 あらゆるブランディング戦略に先立つ原則として重要なのが「一貫性」です。ブランドの価値は、長いスパンの中で、一貫性を保った戦略によって育まれていくものです。今回はアル・ライズとローラ・ライズの共著「ブランディング22の法則」から「一貫性の法則」を取り上げ、ブランドの本質を守ることの重要性や、その禁を犯した場合のリスクなどを説明します。

法則19. 一貫性の法則

 今回取り上げる「一貫性の法則」は、その名の通り、ブランドの本質的な特徴は断じて一貫性を損ねてはならないという大原則です。しかし、ブランディングの基本の基本ともいえるこの法則こそが、ライズの提唱した22条の中でも最も頻繁に破られる法則なのだといいます。

 ブランドは、そのブランドネームが明確に何かを表すものでなければ消費者の頭には入っていかないものです。しかし、多くの企業はえてして、「市場の変化」を免罪符にして、せっかく消費者の中で一定のポジションを占めるようになってきたブランドに変更を加えようとしてしまうのです。

 市場が変化しても、ブランドの本質は変化すべきではありません。ライズが「拡張の法則」や「ライン延長の法則」などの項目で繰り返し説いてきたのもそのことです。時勢に応じた変更を加えて生き残るのは良いですが、それでもブランドの本質的な特徴は断じて変えてはならないのです。

市場の変化に左右されないブランド

 ブランドは多くの場合、それを消費する人のパーソナリティを表すために用いられます。人がどのようなブランドを選択するかは、その人が周囲の人々にどのようなパーソナリティを示したいのかに左右されます。高級車や高級バッグなどのブランドはその典型例でしょう。

 そして、人は成長につれて自分の見せ方を変えたがります。コカ・コーラを愛飲していた人が、大人になるに従ってバドワイザーの愛飲家になるように、自分の成熟ぶりを購入ブランドの変更によって示したがるのは自然なことです。

 では、ここで、コカ・コーラがこうした顧客をも常に繋ぎ止めようと考えたらどうでしょうか。「市場とともに動く」というお題目のもと、「コカ・コーラ・ビール」などといった商品が世に出ることになります。この例はあまりに荒唐無稽な話に思えますが、それを笑えないレベルのライン延長を犯してしまっているブランドは数多くあります。

 市場の動きが自社ブランドにとって逆風になってしまったとき、ブランドには複数の選択肢が生じます。一時的な流れに従ってしまうか、市場から撤退してしまうか、それともその場に留まって市場の風向きが戻ってくるのを期待するか。勿論、ライズが推奨するのは三番目の選択肢です。別の何かが流行っているからといって、ブランドの本質を曲げてそれに飛びつくのは得策ではないのです。

リトルシーザーズの栄光と凋落

 ブランドは一朝一夕で築かれるものではなく、何年、何十年という長いスパンの中で価値を増していくものです。ブランディングの成果が最も上がるのは、長期にわたる一貫性が保たれたときにほかなりません。

 米国を代表するピザ・チェーンの一つ「リトルシーザーズ」は、一貫性によって一度は成功を収め、そして一貫性の欠如によって凋落してしまったブランドです。リトルシーザーズは1979年より、「ピザ、ピザ(Pizza! Pizza!)」、つまり一枚分の値段で二枚のピザが買えるというスローガンで強力なブランディングに打って出ました。宅配ではなく店頭でのテイクアウトにサービスを絞ったこともブランド構築に一役買いました。数多のピザ・チェーンがひしめく米国市場にあって、リトルシーザーズは確固たる特性とメッセージを備えた唯一のブランドとなり、一時は全米で第二位のピザ・チェーンにまで成長したのです。

 しかし、ここでブランドの範囲をテイクアウトのみに限定し続けることを嫌ったリトルシーザーズは、「宅配、宅配(Delivery! Delivery!)」のスローガンのもと、競合他社と同じ宅配サービスにも手を出してしまいました。その途端、売上は全米第三位に転落。さらに、ブランドを立て直そうとしてピザのサイズの大型化を図ったことも裏目に出ました。新しい「スモールサイズ」は従来でいう「ミディアムサイズ」の大きさ、新しい「ミディアムサイズ」は従来でいう「ラージサイズ」の大きさ……といった具合に、消費者の常識と食い違うサイズ名になってしまったのです。これではスムーズな注文もままならず、その上「ピザ、ピザ」のサービスはもうやっていないというのでは、既存顧客が離れてしまうのは当然の結果でした。

 その後、リトルシーザーズの多くの店舗では「ピザ、ピザ」の戦略を復活させて傷の修復に務めたようですが、「一貫性の法則」を犯すリスクの恐ろしさが如実に見て取れる事例ではありませんか。

ブランディングの本質は「限定」にある

 上記のリトルシーザーズの例や、マクドナルドの大人向けハンバーガー「アーチ・デラックス」の失敗例からは、ブランドにとって「限定」がいかに重要であるかを学ぶことができます。「なぜ○○に限定しなければならないのか」という疑念や不満は、ブランディングにとっては危険な着想です。

 ブランドの境界を明確に規定することこそブランディングの基本なのであり、「限定」こそブランディングのプロセスの本質的なポイントなのです。