第63回 法則編(15)国境の法則(1)

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グローバルブランドの展開

 グローバル展開は全てのブランドが夢見ることかもしれませんが、国際的に成功するブランドの条件とは何でしょうか。今回はアル・ライズとローラ・ライズの共著「ブランディング22の法則」から「国境の法則」を取り上げ、ブランドのグローバル展開の意義や、成功しうるグローバルブランドの条件について説明します。

法則18. 国境の法則

 ライズが掲げる十八番目の法則は「国境の法則」です。これは、ブランドの商圏拡大のためのグローバル展開を積極的に推奨するものです。

 自社ブランドの国内シェアが頭打ちになってきたとき、多くの企業が何を考えるか。ライズらの経験によれば、シェアの頭打ちに直面したクライアントの多くは、それでも企業を成長させなければと焦り、結果として「拡張の法則」の禁を犯してしまうものだといいます。そうした企業の悲劇は、自社ブランドを他カテゴリーに拡張することが唯一の成長への道だと思い込んでしまっていることです。

 国内シェアはこれ以上増やせない、しかし企業は更に成長させなければならない。この二つの目標を達成するための完璧な解決策は、グローバルブランドを築き上げることなのだとライズは述べているのです。

自国のブランドイメージを利用する

 長年にわたり、「輸入品」という言葉は多くの商品カテゴリーにおいて魔法の言葉として機能してきました。食品、ビール、ワイン、蒸留酒、衣料、自動車、家電製品など……。われわれ日本人も「輸入品」には弱いですが、欧米でもそれは同じで、ライズに言わせれば「まるで国境を越えると突如としてブランドの価値が増す感じ」があるといいます。

 これは単なるミーハー的な問題ではなく、実際に国境を越えるとブランドの価値が増減する場合は多いといえます。ブランドの価値は消費者の頭の中にあるため、ブランドの「本籍地」が分かることで、そのブランド自体から感じ取れる価値も変動してくるのは自然なことです。

 スイス製の時計、フランス製のワイン、ドイツ製の乗用車、日本製の家電製品、イタリア製の衣料など、国のイメージと商品カテゴリーがポジティブに結びついている例は枚挙にいとまがありません。こうした自国のポジティブイメージと、自社ブランドの扱うカテゴリーが合致している場合、そのブランドはグローバルブランドに成長しうる可能性を秘めているといえます。

 例えば、日本発のワインのブランドがグローバルな成功を収めることは難しいかもしれませんが、家電製品ならば、日本のブランドというだけで世界市場において好意的な評価を受けられる可能性があるということです(実際にはそれほど簡単な話ではないことは、パイオニアの「KURO」の事例で見た通りですが……)。

ドイツに便乗したオランダビール

 ビールの愛飲家なら誰もが「ハイネケン」というブランドを知っているでしょうが、それがオランダのブランドであることは意外と知られていないかもしれません。ハイネケンは、ライズが本書を著した1998年当時で世界第2位、現在でも世界第3位に名を連ねるグローバルブランドです。

 ライズいわく、グローバルブランドとして成功するためには、当該カテゴリーの一番手であること、そして商品のイメージが自国のポジティブ評価と合致していることの二点が必要だといいます。ハイネケンは世界で初めてグローバル戦略に乗り出したビールブランドであり、一つ目の条件はクリアしていました。しかし、二つ目の条件はどうでしょうか。ビールという商品とポジティブなイメージで結びついている国といえば、オランダではなくその隣のドイツです。

 この点、ハイネケンは三つの幸運に恵まれました。まず、オランダは地理的・民族的にドイツと近く、多くのビール愛飲家がひとりでにハイネケンをドイツのブランドだと思い込んでくれたこと(オランダ語の響きはドイツ語とよく似ています)。第二に、グローバル市場におけるドイツの大手競合ブランド「ベックス」が、ドイツ語ではなく英語的な響きを持った名前であったこと。第三に、ドイツ最大手のビールブランドが「ヴァルシュタイナー(Warsteiner)」という名であったこと。通常、あるカテゴリーで名の通った国の代表的ブランドは他国でも大きな成功を収めるものですが、ヴァルシュタイナーの綴りはたまたま英語の「war(戦争)」で始まっており、ドイツのブランドとしては受けが悪かったのです。

 これらの偶然が重なった結果、本来なら「ビールといえばベックス」「ビールといえばヴァルシュタイナー」となるべきところ、ドイツ産ブランドを押し退けてオランダのハイネケンが「ビールといえばハイネケン」と呼ばれる地位を得ることになりました。ハイネケン自身も隣国ドイツのイメージを積極的に利用し、「ドイツで印刷」と記したコースターをバーやレストランに配布するなどしてブランディングに努めています。

国に関する感覚を大事に

 ここまでの話からわかるように、グローバルブランドを築くためには、自国(ときには隣国)に関する感覚を最大限に利用する必要があります。「グローバルな感覚」なるものを備えたグローバルなブランドはどこにもありません。
 次回の記事では、引き続き「国境の法則」をテーマとし、自国のイメージを利用したブランディングについて掘り下げます。