第59回 法則編(11)サブブランドの法則

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サブブランドへの戒め

 今回は、アル・ライズとローラ・ライズの共著「ブランディング22の法則」から「サブブランドの法則」を取り上げます。コアとなるブランドの下に多数のサブブランドをぶら下げる「メガブランド」という手法はなぜ上手く行かないのか、今一度ブランディングの基本に立ち返ってみましょう。

法則14. サブブランドの法則

 サブブランドの展開は、ある程度の成功を収めたブランドが次に抱くようになる展望の一つです。しかし、ここで戒めとしなければならないのが、ブランディングの法則の十四番目「サブブランドの法則」です。

 ライズはこの章の冒頭で、米国の消費者がよく知るブランド4つを取り上げ、それぞれのサブブランド展開について例を挙げています。

1.ビジネスホテルやモーテルなど、安い価格帯のホテルで知られる「ホリデーイン」は、高級ホテル市場への参入を望み、サブブランド「ホリデーイン・クラウンプラザ」を立ち上げた。
2.高級車メーカーの代名詞である「キャデラック」は、小型車の展開を望み、サブブランド「キャデラック・シマロン」を立ち上げた。
3.アイルランド発の高級カットグラス「ウォーターフォード」は、低価格ラインの展開を望み、サブブランド「マーキス・バイ・ウォーターフォード」を立ち上げた。
4.トップデザイナーの名を冠したファッションブランド「ダナ・キャラン」は、低価格でカジュアルな衣服の販売を望み、サブブランド「DKNY」を立ち上げた。

 こうした戦略は、コアブランドの知名度を活かしつつ新領域に参入できるとして、一見効果的なようにも思えます。しかし、ライズに言わせれば、会議室ではもっともらしく聞こえても、市場においては意味をなさない場合がよくあるというのです。

 サブブランドの展開を構想するマーケターは、消費者には自社ブランド以外にも多数の選択肢があるという単純な事実を見落としがちです。安さで有名なホリデーイン(日本でいえば「東横イン」や「スーパーホテル」のような存在)に高級ホテルを期待する顧客がいるでしょうか。高級ホテルに泊まれるお金があるのなら、顧客は迷わずヒルトンやハイアットを選択します。同様に、小型のキャデラック、安物のウォーターフォード、ダナ・キャランのスエットパンツを求めて販売店を訪れる顧客などどこにも存在しなかったのです。

メガブランドは砂上の楼閣

 サブブランドという手法は、ライズが本書を著した1999年の時点で既に相応な批判を浴びていました。一つのコアブランドの傘下に多くのサブブランドを束ねる手法を「メガブランド」などといいますが、これがなかなか上手くいかない理由は、ブランド階層に関するメーカーと消費者の認識のズレにあります。

 それが最も顕著に表れるのは自動車業界です。例えばフォードのブランディング担当者は、自社のブランドとは「アスパイヤー」や「コントゥア」や「クラウン・ビクトリア」や「エスコート」等々だと言い、「フォード」とはブランドではなくメガブランドだと言います。しかし、消費者にとっては「フォード」こそがブランド名であり、アスパイヤーやコントゥアなどは「車種」に過ぎないのです。メーカーがブランドとみなすものを消費者は車種とみなし、メーカーがメガブランドとみなすものを消費者はブランドとみなすというわけです。消費者の認識の中に「メガブランド」という概念が存在しない以上、メーカーが思い描くメガブランドは砂上の楼閣に過ぎないのです。

ブランディングの本来の意義に立ち返る

 そもそも、ブランドの本質とは、唯一無二のコンセプトによる競合他社との差別化にありました。ブランドの本質を外してさえいなければ、一つのブランドのもとで複数の商品を展開することはもちろん可能です。しかし、市場の「必要性」に迫られてサブブランドを立ち上げようとするのは、ブランドの本質を自ら破壊する、お勧めできない行為です。

 ホリデーイン・クラウンプラザの利用客に対するアンケートでは、「いいホテルだが、ホリデーインにしては少々高すぎる」との声が多数を占めていたといいます。安いホテルであることが長所なはずのホリデーインのブランド名のもとでは、どんなに素晴らしい高級ホテルを展開したとしてもそのような評価しか得られないのです。対して、マーキス・バイ・ウォーターフォードは成功を収めましたが、それは本来のウォーターフォードのアイデンティティであった高価格商品の売上の犠牲によるところが大きかったといえます。

 次回で取り上げる「兄弟の法則」でも出てくる話ですが、新たなブランドの立ち上げは、新たなカテゴリーを創り出す場合にのみ行うべきです。売上を拡大するためや、競合に追随するためといった目的で安易にサブブランドに走ると、ブランドの本来の価値さえも損ねてしまうのです。