第58回 法則編(10)企業の法則

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企業名か?ブランド名か?

 ブランディングの世界では、「顧客はブランドを買うのであって、企業を買うわけではない」と言われます。今回は、アル・ライズとローラ・ライズの共著「ブランディング22の法則」から「企業の法則」を取り上げ、企業名とブランド名の理想的な関係について考察してみましょう。

法則13. 企業の法則

 ブランディングの法則の十三番目に出てくるのは「企業の法則」です。これは、ブランド名と企業名のどちらをブランディングにおいて優先するべきかという話ですが、結論を先取りして書くと以下の通りになります。

 1.ブランディングで重要なのは、企業名よりもブランド名である。
 2.最も望ましいのは、企業名とブランド名がイコールである状態である。

 現実のブランドを見渡すと、企業名のほうがブランド名よりも重みがあるケースと、逆にブランド名が企業名よりも重要なポジションを占めているケースの両方が存在します。例えば、「マイクロソフト」という企業名は、「マイクロソフト・ワード」というブランド名よりも高い重要性を持っているといえます。逆にブランド名のほうが重要な例としては、ライズは米国の洗剤市場で高いシェアを占めるブランド「タイド」とその発売元「プロクター&ギャンブル(P&G)」社の関係を挙げていますが、日本人にとっては例えば「三ツ矢サイダー」というブランド名と「アサヒ飲料」という企業名の関係、あるいは「揖保乃糸」というブランド名と「兵庫県手延素麺協同組合」という組織名の関係などが分かりやすいでしょう。

 ライズに言わせれば、ブランド名と企業名という課題は「単純であると同時に複雑でもある」とのことです。法則は上に示した通り、「企業名よりもブランド名を重視するべき」という単純明快なものです。しかし、多くの企業がこの単純な法則にシンプルに従うことをせず、「ブランドか企業か」という不毛な議論を続けているのです。

 消費者はブランドを買うのであって、企業を買うわけではありません。ほとんどの場合において、企業名を前面に出すよりもブランド名を打ち出したほうが効果的なのです。

「企業名=ブランド名」が黄金パターン

 コカ・コーラ、IBM、ゼロックス、インテルなど、企業名がそのままブランド名となっている場合、消費者はこれらの名称を「企業名」とはみなさず、「ブランド名」とみなします。ジッポやBMWもそうでしょう。この「企業名=ブランド名」のパターンはブランディング戦略において大きな効果を発揮します。他の手法を選択するべき絶対的な理由がない限り、あくまでベストな戦略は企業名をブランド名として使うことであるとライズは述べています。

 コカ・コーラとは何か、ジッポとは何か、BMWとは何かという問いに対し、消費者は即座に「コーラである」「ライターである」「高級車である」という答えを思い浮かべることができます。重要なのは、「コカ・コーラとは何か」という問いの答えが「コーラを生産している企業である」とはならないことです。この点についてライズは、「コカ・コーラはコカ・コーラ社によって作られるからコカ・コーラ(という名前)なのではない。コーラそのものがコカ・コーラなのだ」と述べています。

ブランド名が「主」、企業名が「従」

 企業名とブランド名を一致させるのがベストな戦略だと言っても、現実には全ての企業がその企業名を冠したブランドだけを展開しているわけではありません。ここで、「マイクロソフトのワード」「アサヒの三ツ矢サイダー」のように、企業名とブランド名がセットで用いられる場合を考えてみると、両者の関係はブランド名が「主」、企業名が「従」という形になっていることが見えてきます。れっきとしたブランド名がある場合、消費者が企業名を使って商品を呼ぶことはめったにありません。メルセデス・ベンツを販売しているのがダイムラー社だからといって、人は「私の新しいダイムラー製高級車をどう思う?」と聞くことはなく、必ず「私の新しいベンツをどう思う?」と聞くのです。

 日本人なら誰もがトヨタのブランドだと知っているレクサスでさえ、欧米の顧客にとっては、それを生産しているのがトヨタかホンダか日産かなど気に留まらないことだといいます。我々日本人もまた、「オレオ」というクッキーが米国のナビスコの商品であることを知ったのは、つい最近、日本国内でのライセンス販売が終了するとのニュースに接したときが初めてだったりしないでしょうか。

 パッケージに企業名とブランド名の両方を掲げる場合には、前回取り上げた「ジェネリックの法則」も重要になってきます。「マイクロソフト・エクセル」というブランド名には、「マイクロソフト」の部分は付いている意味がありません。エクセルを作っている企業はマイクロソフトしかないからです。ところが、「マイクロソフト・ワード」の場合、「ワード」という総称的(ジェネリック)なブランド名だけでは他の商品と区別しづらいため、英語圏の消費者は「マイクロソフト・ワード」というフルネームでこの商品を呼ぶことになります。当然、ブランド名が長くなればなるほど消費者に覚えてもらえる可能性は低くなりますので、この状態はブランディングの観点からは望ましいものとはいえません。

 企業名をブランド名と併用する場合、あくまで企業名は「脇役」として使うことを心がけるべきなのです。