第55回 法則編(7)ライン延長の法則

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ライン延長はブランドの禁忌

 一つのブランド名を冠する商品の種類を増やす、つまり「ラインを延長する」ことはブランディングにおいて得策ではありません。これは、アル・ライズとローラ・ライズの共著「ブランディング22の法則」において「ライン拡張の法則」として取り上げられていることです。ライン延長によってどのような失敗が起こり得るか見てみましょう。

法則10. ライン延長の法則

 ブランディングの法則として10番目に紹介するのは「ライン延長の法則」です。「拡張の法則」及び「収縮の法則」でも述べられていたように、ブランドの力というものは、取り扱うカテゴリーを拡張するほど損なわれ、逆に焦点を絞り込むほど増大していきます。「ライン延長の法則」とは、あるブランド名を冠する商品の種類を無闇矢鱈に増やしていく(ラインを延長していく)ことの愚かさを説くものです。

 前回の「名前の法則」の記事で述べたように、日本を含むアジアの大企業は、商品個別のブランディングを軽んじ、巨大な企業名をありとあらゆる商品に冠して展開しています。「メガブランド」などと呼ばれるこの手法は、ライズの「ライン延長の法則」に明らかに抵触するものです。アジアに限らず、米国内においても、食品や薬品などの商品の多くがこの「ライン延長」によって生み出された新商品だといいます。そして、ライズの調べによれば、こうした商品の一定数はスーパーマーケットの店頭で一ヶ月以上も売れずに埃に晒されているというのです。せっかくのブランド名が力を発揮していないわけです。

ライン延長はパイの分け前を小さくするだけ

 日本でも米国でも、ブランドのライン延長が盛んに行われているカテゴリーといえばビールです。1970年代の米国では、ビールの主要ブランドは「バドワイザー」「ミラー・ハイライフ」「クアーズ・バンケット」の3つか存在しませんでした。しかし、1970年代半ばにミラーが「ミラー・ライト」というライン延長商品を打ち出したのを切っ掛けに、各社とも次々とブランドのラインを延長していき、ライズが本書を執筆した1990年代末期には3社合わせて16種類ものブランドを売り出すようになっていました。いずれも「バド」「ミラー」「クアーズ」という名前を冠した商品のマイナーチェンジ版です。

 では、ブランド数を3社合わせて約3倍にまで増やしたのですから、売上もそれだけ上がったのでしょうか。答えは否です。各社の売上は若干増加したとはいえ、期待ほどの伸びはありませんでした。1970年代から1990年代にかけて、米国民一人あたりのビールの消費量は相対的に横ばいとなっており、人口増加の分だけしか市場は成長しなかったのです。つまり、かつて3つのブランドが奪い合っていたパイを、16のブランドが奪い合うようになっただけということです。

ライン延長では競合からシェアを奪えない

 ライン延長の禁を犯してしまうブランドは、大抵の場合、競合他社から市場シェアを奪うためにブランドの商品を拡大させていきます。実際、クアーズがライトビールの「クアーズ・ライト」を新たに発売しようとしていた際、ライズらが同社の幹部に「どこの市場から売上を奪うつもりか」と尋ねると、競合であるバドワイザーやミラーの市場からであると答えたといいます。同様に、バドワイザーのライトビール「バドライト」は、ミラーやクアーズのシェアを奪うことを目標としていました。

 しかし、クアーズ・ライトを購入するのはバドワイザーやミラーの顧客ではなく、従来のクアーズの顧客です。新発売のバドライトに手を伸ばすのは、普段からバドワイザーを飲んでいる消費者なのです。ライン延長は競合他社からシェアを奪うことにはならず、元々いた自社顧客の消費の振り分けを変更させるに過ぎないのです。

 当然、ラインを延長して新商品を出せば出すほど、元々の商品の売れ行きは低迷していきます。米国のビール大手3社が競うようにライトビールを発売した結果、3社のレギュラービールの売上は相当に落ち込みました。ブランドの元あった価値さえも損ねてしまう、本末転倒の施策だったと言わざるを得ません。

既存ブランドの価値をも下げるライン延長

 ライン延長の落とし穴はまだあります。新商品の効能を謳えば謳うほど、同ブランドの既存商品が不十分なものと思われてしまうことです。コカ・コーラが出している「ダイエットコーク」は分かりやすい例でしょう。低カロリー食品への関心の高まりを受けて、ダイエットコークは売上を伸ばしましたが、それと引き換えに「普通のコカ・コーラには問題があるのか」という疑念を消費者の頭に植え付けてしまいました。同社が取るべき施策は、コカ・コーラのラインを延長するのではなく、第二のブランドを打ち出すことであったとライズは述べています。

 新たなカテゴリーに手を伸ばすときは、その度に新規ブランドの創出を真剣に考えるのが得策だといえそうです。