第54回 法則編(6)名前の法則

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ブランドネームの力

 あるカテゴリーの商品やサービスを選択するとき、皆さんは何を基準に選ぶでしょうか。同程度の品質や価格であれば、ブランド名で商品を選ぶという方は決して少なくないでしょう。アル・ライズとローラ・ライズの共著「ブランディング22の法則」においても、ブランド名の力は「名前の法則」として取り上げられています。今回はブランド名の重要性を見直してみましょう。

法則9. 名前の法則

 ライズ親子が掲げた九番目のブランディングの法則は「名前の法則」です。この法則について、ライズは端的に「結局のところ、ブランドとは名前のことでしかない」と述べています。

 ブランドの成功を左右する要素には、短期的なものと長期的なものがあります。他社が手を出していないユニークなアイデアやコンセプトを創造し、新たなカテゴリーの一番手を目指すというのは、短期的な生き残りのための方策に過ぎません。消費者の頭の中に一つの言葉を所有するべきという「言葉の法則」も、あくまでブランドの短期的目標を示すものです。

 長期的に見れば、当初はユニークだったコンセプトやアイデアもいずれ必ず陳腐化し、それそのものでは差別化が困難になります。このことは、以前の記事でも「ブランドコンセプトの陳腐化」と題して取り上げました。ネスカフェが唯一のインスタントコーヒーではなくなり、セブン-イレブンが唯一のコンビニエンスストアではなくなったように、競合他社の追随に加えて時代の進歩や消費者の慣れもあるため、あらゆる差別化ポイントはやがて陳腐化する宿命を避けられないのです。

 ライズも勿論この点を指摘しています。彼らが例に挙げている米国のコピー機ブランド「ゼロックス」は、「初の普通紙コピー機」という鮮烈な差別化で一大ブランドに上り詰めましたが、現在では全てのコピー機が普通紙コピー機になっています。まさにコンセプトが陳腐化してしまった中で、それでもゼロックスがコピー機業界を圧倒するベストブランドであり続けている理由は、ひとえにその「名前」にあるとライズは述べています。ブランドの名前こそ、長期にわたってブランドの成功を支える要素となるのです。

品質差を凌駕するブランド名の力

 コピー機に限らず、ほぼ全ての商品カテゴリーにおいて、市場が成熟すればするほど同業他社間での技術差・品質差は縮まっていきます。その時こそ、確立されたブランドネームが何より力を持つことになります。

 「ブランドコンセプトの陳腐化」の記事で紹介した事例を見直してみましょう。インスタントコーヒーの「マキシム」は、ライバルである「ネスカフェ・ゴールドブレンド」の味や香りに近付けることで消費者のブランド・スイッチングを狙っていましたが、この試みは上手くいきませんでした。消費者は単に品質や値段でコーヒーを選んでいるわけではなく、「ネスカフェ・ゴールドブレンド」というブランドネームを買っていたのです。これがブランド名の力であり、ライズが「ブランドの資産の中で最も貴重なのはブランド名そのもの」と述べるゆえんでもあります。

アジアの企業は問題を抱えている

 次回の記事で取り上げる「ライン延長の法則」にも関わってきますが、ライズの主張の基本は、同じブランド名を冠する商品のラインを拡大していくことは好ましくないということです。言い換えれば、巨大な企業名を全ての商品に冠する「メガブランド」のやり方は望ましくなく、商品カテゴリーごとに優れたブランドネームを付けるのが正解だと解釈できるでしょう。

 そして、ライズは、日本をはじめとするアジアの企業は事実上ほぼ全てがこの禁を犯していると指摘しています。例えば、三菱、松下、三井といった大企業は、その社名のもとで数多くのグループ企業を展開し、あらゆるカテゴリーの商品やサービスを売り出しています。こうなると、「三菱」とは何か、「松下」とは何か、「三井」とは何か、誰も答えられなくなるのです。「ゼロックス」といえばコピー機に違いなく、「コカ・コーラ」といえばコーラ以外の何物でもないことと比べると、これらの日本の大企業の名前はブランディングの観点からは全くの無価値であることがわかるでしょう。韓国の大企業であるヒュンダイも、「チップ(半導体)からシップ(船)まで」のスローガンのもと、ヒュンダイの名前であらゆる商品を売り出しており、同じ轍を踏んでいるといえます。

 ライズが本書を執筆していた1997年当時、米国のトップ100社の売上高は2兆8千億ドルであり、奇遇にも日本のトップ100社の売上高も同じ2兆8千億ドルでした。しかし、米国の100社が売上に対して平均6.3%の純利益を上げていたのに対し、日本の100社の平均純利益は僅か1.1%に過ぎませんでした。韓国はさらに低く、同年の大手25社の平均純利益は0.8%という数字でした。ライズは、同じブランド名を様々な商品カテゴリーに使い回す慣行を、アジアが抱える「ブランディングの問題」とまで言い切り、警鐘を鳴らしています。われわれ日本人としては重く受け止めるべき指摘です。