第51回 法則編(3)言葉の法則

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Studying Japanese

強いブランドは言葉を持つ

 ブランドの強さを測る基準のひとつに、そのブランドが消費者の頭の中にいかに強いイメージを持っているかということが挙げられるでしょう。「○○(要素)といえば××(ブランド名)」と誰もが思い描けるブランドは、そのジャンルにおいて競合他社を凌駕する強いブランドに違いありません。今回は、アル・ライズとローラ・ライズの共著「ブランディング22の法則」の中から「言葉の法則」を取り上げ、ブランドが言葉を所有することの意義やその手法を紹介します。

法則5. 言葉の法則

 ブランディングの第五の法則は「言葉の法則」です。ライズ親子によれば、強いブランドは、消費者の頭の中に何らかの「言葉」を所有しているものだといいます。存在感のあるブランドほど、そのブランドネームから連想されうるイメージもまた多いものですが、「ブランドが言葉を所有する」とは、ある言葉がただ一つのブランドに一対一対応で結びつくほどの強固なブランド連想が確立されている状態のことです。
 例えば、BMWが人々の頭の中に所有している言葉は「走り」でしょう。また、ボルボは「安全」という言葉を所有しているといわれます。ひとたび一つのブランドがある言葉を所有すると、競合ブランドがその言葉を奪い取ることはほぼ不可能になります。実際に、BMWより走行性に優れた車を作っているブランドや、ボルボより安全性の高い車を作れるブランドは他にもあるに違いありませんが、それでもやはり世界中の人が「走り」といえばBMWを思い浮かべ、「安全」といえばボルボを思い浮かべるのです。
 言い換えれば、優れたブランドを打ち立てるためには、そのブランドが何らかの言葉を排他的に所有しうる状態を目指すことが不可欠だということになります。最近紹介したレクサスのブランディングなどは、BMWの「走り」やボルボの「安全」に匹敵する何らかの言葉を所有しようと奮闘している事例といえるでしょう。

カテゴリ名そのものを所有するブランド

 ブランドが消費者の頭の中に言葉を所有するという現象の最たるものは、カテゴリ名そのものを占有してしまうことです。これは「商標の普通名称化」と呼ばれる現象で、セロテープ、ホッチキス、宅急便など、固有の商標がそのカテゴリの商品全てを指す言葉として用いられるようになった例はよく知られているかと思います。ライズは、英語圏における商標の普通名称化の代表例として「クリネックス」(ティッシュペーパー)の例を挙げ、クリネックスが消費者の頭の中に所有しているのはティッシュというカテゴリ名そのものであると述べています。
 あるブランドがカテゴリ名を所有するに至るプロセスは明快です。そのカテゴリにおける初めての商品であり、名前とコンセプトが分かりやすく単純であるということです。米国のキンバリー・クラーク社がクリネックスを売り出すまで、世間にはポケットティッシュの市場は存在しませんでした。同社は「ポケットに風邪(のついたハンカチ)を入れないでください」というキャッチコピーを武器に、ティッシュに焦点を絞った商品展開を続け、消費者の頭にブランド名を確実に食い込ませることに成功しました。今や、英語圏の人々は、競合他社のティッシュをも「クリネックス」と呼ぶのです。
 同様に、コカコーラはコーラというカテゴリを、バンドエイドは絆創膏というカテゴリを、サランラップは食品用ラップというカテゴリを、それぞれ人々の中に所有しています。ここまでの状態に至ったブランドは、競合にその地位を脅かされることはありません。

新たな言葉でカテゴリを創造する

 既に先発ブランドが一番手としてカテゴリ名を所有してしまっている場合、たとえ売上で追いついたとしてもブランドとしては後塵を拝さざるを得ません。そこで、これまでの話とも重なる部分ですが、後発ブランドとしてはさらに焦点を絞り込むことで新規カテゴリを創出することが有効になります。
 ライズはその成功例として、米国の運送会社であるフェデラル・エクスプレス(フェデックス)を挙げています。1971年に誕生した同社は、当初は運送業界で苦戦していましたが、1973年、創業者の閃きで「翌日配送」のみに焦点を絞ったことで爆発的に知名度を拡大しました。一方、先発ブランドであったエメリー・エア・フレイトは、翌日配送のほか、低料金2〜3日配送、小型貨物、大型貨物など、あらゆるサービスを提供する路線を取ったため、フェデックスほど強固なブランドイメージを確立することができず、シェアを奪われてしまいました。今日、フェデックスはエメリーを遥かに凌駕する世界最大手の運送会社となり、「フェデックス」は翌日配送を意味する言葉として一般に用いられるまでになっています。
 新ブランドが行うべきは、既存の市場のサイズを測ったり、そこで何%のシェアを獲得できるかを見積もったりすることではありません。「ブランドの焦点を絞り、消費者の頭の中に一つの言葉を所有することによって、どれだけの市場を創造することができるか」を問い掛けるのが正解であるとライズは述べています。

所有する言葉を一つに絞る

 ブランドを象徴する要素は可能な限り一つに絞り込むべきだということは、これまでにも「ブランディングの引き算」などの記事で述べてきました。「言葉の法則」においてもこの基本は同じです。平均的な大人が意味を知っている単語はおよそ5万語ほどであるのに対し、登録された商標は100万以上にも上ります。一つのブランドが消費者の頭の中に所有できる言葉は、どう頑張っても一つまででしょう。「拡張の法則」でも述べられているように、ブランドの取り扱う範囲をあれやこれやと拡張していくことは、ブランド力の低下に繋がってしまいます。
 大事なのは、ブランドを拡張することではなく、市場を拡張することです。フェデックスの登場によって「翌日配送」の市場が広がったように、優れたブランドが所有するに至った言葉は、ブームとなって市場規模を押し広げます。これこそが「言葉の法則」の真の価値なのです。