第49回 【法則編1】拡張の法則&収縮の法則

    Posted in: ブランディング講座

ブランディング22の法則

私達はこれまで、ブランディングを成功に導くための要素を様々な観点から見てきました。ブランドの在り方、生き残り方は様々ですが、成功しているブランドの裏には、その成功を支える共通の法則をいくつも見出すことができます。米国のライズ親子による「ブランディング22の法則」(1998)という名著があります。父のアル・ライズはポジショニング論などで知られる現代マーケティングの第一人者であり、娘のローラ・ライズも20年以上にわたり父と共同でビジネスコンサルティングに携わっています。二人の初めての共著である「ブランディング22の法則」は、サイクルの短いビジネスの世界では既に古典の部類に入るともいえますが、ブランディングの基本書として今なお参照されることが多い一冊です。

ここからは、今までの記事の振り返りも兼ねて、ライズ親子の「法則」に沿ってブランドの成功例や失敗例を追ってみましょう。

法則1. 拡張の法則

ブランディング第一の法則は「拡張」です。これは、強力なブランドを築くためには、ブランドの扱う範囲を拡張してはならないということを意味します。あるブランドネームで括られる商品カテゴリをあれもこれもと増やすと、仮に短期的には売上が上がったとしても、長い目で見ればブランドの力は低下してしまいます。

米国の自動車メーカーであるシボレーは、かつてはアメリカで一番売れる車と言われていました。しかし、大型車から小型車まで、また高価な車から廉価な車まで、果ては乗用車のみならずトラックまでもと、シボレーというブランドネームを与える範囲を拡張しすぎたことが祟って人気を落とし、米国一位の座をフォードに譲ってしまいました。1986年度には年間約172万台あったシボレーの販売台数は、今日では年間100万台以下にまで落ち込んでいます。

また、クレジットカードのアメリカン・エクスプレスは、かつては世界一の権威を持つクレジットカードと言われ、アメックスのゴールドカードを持つことは一流の男のステータスとも見なされていました。しかし、同社が「金融のスーパーマーケットになる」という目標を掲げ、新しいカード区分の導入を盛んに始めたあたりから雲行きが怪しくなります。シニア用や学生用をはじめ、年間10種類を超える勢いで新カードの発行を進めた結果、1988年時点では27%だった同社の市場シェアは、今日では18%まで低下してしまいました。かつて一流のステータスと言われたアメックスのゴールドカードは、現在は20代の若者でも簡単に持てるカードに成り下がり、年会費無料キャンペーンのWEB広告で会員を集めるのに四苦八苦しているほどです。

ブランドの範囲をむやみやたらに拡張することは、自らブランドを殺すことにもなってしまうのです。

ラインナップに一線を引くBMW

以前の記事で、BMWの一貫したブランディング戦略について取り上げました。BMWのブランド価値は、実に10ものプロセスによって強固に守られていると書きましたが、そこで一番目に挙がるプロセスも「商品ラインの絞り込み」でした。高級車ブランドの中にも、顧客層を広げるため、バスやトラックといった商用車にまでブランドの範囲を拡大している事例は多く見られます。しかし、BMWは敢えてラインナップに一線を引き、BMWの名を冠するのは乗用車のみと固く定めているのです。そこに込められているのは、顧客を一時的に増やすことよりも、ブランドイメージの拡散を防ぎ、ブランドの価値を守ることを大切にしたいという信念です。

BMWの在り方には、ブランドの範囲を拡張しないという法則の体現を見ることができます。

法則2. 収縮の法則

第二の法則は「収縮」です。これは、ブランドの焦点の絞り込みこそがブランディングの成功に繋がるという法則です。以前「ブランディングの引き算」の記事で取り上げたように、スターバックスは紅茶やスパイスを売ることをやめ、商材をコーヒーに絞ったことで成功しました。アメリカのコーヒーショップといえば、朝食からランチ、ディナーに至るまであらゆる飲食物を取り揃えているのが普通ですが、敢えてその逆を行く発想がスターバックスというブランドを産んだのです。同様に、サブウェイは、何種類ものパンやサンドイッチを取り揃えているのが当たり前だったデリカテッセンという業態において、サブマリン・サンドイッチだけを売るという斬新な戦略で成功を収めました。トイザらスもまた、玩具と子供用家具を売る店から、玩具だけを売る店に転換したことで業界トップの地位を築きました。

ライズ親子は、ブランディングの究極の目標は「カテゴリーを支配すること」であるとし、小売業界のカテゴリーキラーは全て以下の5段階に従っていると述べています。

1.焦点を絞り込む。
2.製品を豊富にストックする。
3.安く仕入れる。
4.安く売る。
5.当該カテゴリーを支配する。

こうすると単純な図式であるように見えますが、2以降の過程を実現するためには、何よりもまず1の「焦点の絞り込み」が不可欠であることがわかるでしょう。

これまでに紹介してきた「ブランディングのゲリラ戦」や「トップオブマインドを目指す」といった考え方も、この「収縮の法則」と関連しています。あるカテゴリーのトップになろうと思えば、競合がまだいないカテゴリーを新たに作り出すことが一番の早道であり、そのために焦点の絞り込みが重要になるのです。