第48回 後発ブランドゆえの自由度

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Lexus NX

歴史の浅さを武器にする

 ここ数回の記事では、リーダーシップやブランドデザインの重要性に触れ、トヨタの高級車ブランド「レクサス」の試みについて述べてきました。レクサスを一流のブランドにするためには、何よりもまずレクサスを「トヨタのおまけ」といえる立場から脱却させ、一つのブランドとして世界にアピールしていく必要があります。

 繰り返し述べてきたように、プレミアムカーの世界では、レクサスはまだまだ新参ブランドの立場にあります。アメリカ市場では25周年を超えましたが、日本に帰国を果たしてからはまだ10年しか経っておらず、メルセデス・ベンツやBMWといったプレミアムカーの先発ブランドと比べると圧倒的に歴史の浅い存在です。しかし、その歴史の短さこそがブランディングにおいては武器になることもあります。

 今回は、後発ブランドであることを逆手に取ったレクサスのブランド戦略を概観してみましょう。

新ブランドゆえの自由なデザイン

 後発ブランドの優位性が最も発揮されるのは、デザインの面においてでしょう。レクサスインターナショナルのデザイン部長を務める蛭田洋氏は、「レクサスには歴史がない。見方を変えればそれが有利になる」と述べています。

 ベンツしかり、BMWしかり、長い伝統を持つブランドは、それだけ厳しいデザイン文法の制約のもとで新モデルのデザインをしなければなりません。もちろん、BMWの「キドニーグリル」に象徴されるように、ブランドとして統一されたデザインを持っていることは有利な面が大きいのですが、デザイン上の「遊び」があまり許されなくなるのも事実です。その点、前回の記事で取り上げたように、レクサスは「スピンドルグリル」をデザイン上のアイデンティティと位置付けながらも、それに固執したデザインにしないという方針を打ち出す自由さを持っています。新発のブランドは過去の歴史に縛られない分、デザイン面で冒険できる余地が大きいということです。

 実際、蛭田氏はヨーロッパの自動車メーカーのデザイナーともフランクに話す機会が多いそうですが、「色々試せるのは羨ましい」と言われることが多々あるといいます。それだけ、伝統あるブランドのデザイナーは歴史に縛られてしまっているということでしょう。

多様性がブランドに魅力を与える

 トヨタと異なるブランド認知の確立がレクサスの大きな課題であることは、これまで述べてきた通りです。デザイン面でも、両者のオリジナリティの作り分けは最重要課題の一つです。その点を見定めるデザイン責任者を任されているのが、トヨタデザイン本部グローバルデザイン企画部主査の田名部武志氏です。

 田名部氏は、レクサスのデザインについて、「初めに様式ありきではなく、緩やかな概念のもと、デザイナーが自由に創造性を発揮できるようにしたい」と述べています。レクサスは、「先鋭と精妙の二律双生」を意味する「L-finesse(エルフィネス)」というデザインコンセプトを掲げていますが、そのコンセプトを与えられればどのデザイナーも同じことを発想するというわけではありません。田名部氏が述べるのは、デザイナー一人ひとりがコンセプトを自分なりに咀嚼して形にしていき、それで出てくる多様性がブランドにプラスの魅力を与えることになればいいということです。

 ヨーロッパの高級車ブランドの場合、グリルのデザインを少し変えるだけでかなりイメージが変わると言われています。田名部氏が目指すのは、そうした厳しい縛りの中で車作りをするのではなく、個人個人の創造性が伸び伸びと発揮され、良いデザインを求めて競い合うような風土なのだということです。

 これもまた、レクサスが新発ブランドであるからこそ取りうる方針であると同時に、十年後、二十年後のレクサスを運命付ける舵取りなのだと言えるかもしれません。

モード志向への挑戦

 レクサスが2013年から採用している「AMAZING IN MOTION」というブランドスローガンにも、新発ブランドゆえの挑戦が込められています。レクサスのブランドマネジメント部長を務める高田敦史氏は、多種多様な「いいもの」が溢れている中で高いお金を出してレクサスに乗ってもらうためには「アメイジング」(驚き)が必要であると述べています。高田氏が考えるブランディング戦略は、これまでの高級車市場にあまり見られなかった「モード」(流行)の要素をレクサスに入れていきたいということです。

 高田氏によれば、ブランドは「オーセンティック」(本物・正統)と「モード」(流行)の二つで成り立っており、その比率がブランドの在り方を決めるのだといいます。ファッション業界でいえば、エルメスのような「オーセンティック」寄りのブランドは、あまり流行に乗らなくてもよい。対してシャネルのような「モード」寄りのブランドは、「3ヶ月前のものはもう売らない」という言葉があるほど入れ替わりが激しいのだと。高級車の世界がファッションと異なるのは、どのブランドも基本的に「オーセンティック」の要素は持っているのが当然だということです。そこでレクサスを「モード」を追求するブランドにすれば、それだけで一つのアイデンティティを確立することができます。

 高田氏が掲げるこの方針もまた、レクサスというブランドが新発であるがゆえの挑戦といえるでしょう。