第46回 レクサスを導くリーダーシップ

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ブランドを左右するリーダーシップ

 多くのブランドは企業や組合といった組織体によって生み出されますが、その裏には、ブランドに関わる生身の人間の思いが必ず込められています。今日成功しているブランドは、どんなブランドにしたい、どんな顧客に愛されたいといった人の思いを原動力にして成長してきたものなのです。
 特に、ブランドにトップで携わる者の思いは、ブランドの成否を左右する重要な要素となります。ブランディングにおいて強固なリーダーシップが必要不可欠であることは、これまでにも「花キューピット」や「揖保乃糸」の事例で見てきました。前回から取り上げているレクサスのブランディングもまた、豊田章男社長のリーダーシップが強く発揮されているケースです。
 章男氏がレクサスというブランドに込めた思いを通じて、高級ブランドの目指すべき地点を考えてみましょう。

家業意識が企業ブランドを守る

 元・亜細亜大学経営学部教授の横澤利昌氏は、企業の変革のために重要な要素は「経営者と企業が一心同体だという家業意識」であると述べています。
 ポラロイド社や円谷プロダクションの事例でも見たように、どんな大企業であっても、同じことばかりを続けていては時代の流れに取り残されて衰退してしまいます。継続的な繁栄を収めている企業は、一見すると変わっていないように見えても、中身の部分では着々と時代の変化に対応して変化していっているのです。しかし、それは決して容易なことではありません。横澤氏によると、経営者が自らの保身や名声を第一に考えていると、企業にとってではなく自らにとって都合の良い策を打ってしまうため、時代に合わせた変革は難しいとのことです。企業が進むべき道をニュートラルに見極めるためには、企業と経営者の利害が一致していること、いわば経営者が企業について「家業意識」を持つことが大切だと横澤氏は言います。家業意識を保つには、企業の歴史や伝統に敬意を払う空気を維持するか、さもなくば創業者一族が経営に携わり続けることが必要であるとのことです。
 前回述べたように、レクサスがアメリカ市場を中心として生きていく道や、世界各地のニーズに合わせた車を作る道を安易に選択せず、レクサスのアイデンティティを全世界に認めさせるという険しい道を躊躇いなく選択できたのは、現社長の章男氏が創業者一族の出であり、自らの保身や名誉よりもトヨタの利益を再優先に考えられる立場にあったことが大きいといえます。2009年に章男氏が社長に就任し、「もっといいクルマを作る」というスローガンを掲げてリーダーシップを執り始めたことで、レクサスのブランド再生が始まりました。

レクサスをトヨタのおまけにしない

 2016年、デトロイトの北米モーターショーで行われたレクサスのメディア向けカンファレンスでは、映像の冒頭に「BORING LEXUS」(退屈なレクサス)という文字が踊っていました。「BORING」の文字には斜めの抹消線が引かれており、壇上に現れた章男氏は「我々はエモーショナルなブランドになる。二度と『レクサス』と『退屈』の文字が同じ文に登場することがないように」と記者団に向かって語りました。
 実際、それまでのアメリカ市場では、レクサスについて「品質は良いが退屈なブランド」と評する声が多く聞かれていました。その他の高級車ブランドが、走り重視、美しさ重視、威圧感重視など様々なキャラクター付けで勝負している中、レクサスはキャラクター性の薄いブランドであると思われていたのです。それはアメリカの顧客が日本車を低く見ているからということではありません。レクサスが退屈と評されるゆえんは、それまでのトヨタ自身が、終始、レクサスを「トヨタのついで」と見ていたことにあったのです。
 ハイブリッド技術をはじめ、トヨタは世界有数の技術力や高い品質を有しており、それは旧来のレクサスにも惜しげもなく投入されていました。しかし、そうした技術や品質はあくまで「トヨタのため」に作られたものをレクサスに転用しているに過ぎず、「レクサスのため」のものではありませんでした。こうした方針のもとでは、強いブランドは生まれ得ません。章男氏がまず取り組まなければならなかったのは、レクサスを「トヨタのおまけ」と捉えている社内意識に一石を投じることだったのです。

ブランド・パートナー像の想定

 ブランディングは顧客を意識して行うものだと述べてきましたが、その中でも真っ先に重視するべき顧客は「ブランド・パートナー」となる人々です。熱心なブランド・パートナーになってくれる顧客層を獲得することが、ブランドのその後を左右します。
 自らも熱狂的なカーガイ(クルマ好き)として知られる章男氏が、レクサスのブランド・パートナーとして想定したのは、「本物を知る顧客」というシンプルなフレーズで表される顧客層でした。「レクサスは、これまで色々なクルマに乗ってきた“本物”を知るお客様が、最後に行き着くクルマであってほしい」――章男氏はそう語り、レクサスを世界トップの高級車ブランドにするための改革に打って出ました。
 次回の記事では、そうした顧客層をブランド・パートナーとして取り込むための具体的な施策に迫ってみましょう。