第45回 世界ブランドを目指すレクサスの挑戦

    Posted in: ブランディング講座

レクサスの挑戦

ここまでの記事では、ブランディングの様々な戦略や手法を紹介し、またその前提となるブランド顧客の区分についても述べてきました。ブランディングにおいては、競合となる「敵」を設定し、自社ブランドの目指す地点を明確に設定し、そして顧客との関係性を意識することが重要です。優れたブランドには、ブランドを成功に導くための設計図がしっかりと存在しているのです。

今回から数回にわたって取り上げるのは、トヨタが展開する高級車ブランド「レクサス」の事例です。トヨタは世界でも名を知られた大企業の一つですが、レクサスは世界の高級車ブランドの中ではまだまだ新参といえます。ベンツやBMWなどの先発ブランドに迫るべく、レクサスが描いているブランディング戦略とはどのようなものでしょうか。

世界におけるレクサスの位置

高級車と一口に言ってもその基準は様々ですが、「プレステージセグメント」と「プレミアムセグメント」という分類はわかりやすいでしょう。「プレステージセグメント」とは、本記事で述べるような高級車の世界よりもさらに一段上の超高級車のことで、専業ブランドとしてはイギリスのロールスロイスやベントレー、イタリアのマセラティなどが挙げられます。イタリアのフェラーリやランボルギーニなど、スーパースポーツカーの一部もこのカテゴリに属します。いずれも価格は数千万円から一億円以上にも達し、オーダーメイドの一点物となることも多く、まさに富豪のためのブランドといえます。

対して「プレミアムセグメント」とは、街中で目にする量産型の高級車のことです。このカテゴリで高い市場シェアを占めるのは、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディの「ドイツ御三家」と言われる3ブランド。その他にも、アメリカのキャデラックやリンカーン、ドイツのポルシェ、イギリスのジャガー、スウェーデンのボルボ、イタリアのアルファロメオなど、よく耳にするブランドが並んでいます。価格は数百万円から一千万円台に収まることが多く、一般的な富裕層のためのブランドです。

日本の自動車メーカーは長らく、プレミアムセグメントでの展開が不得意といわれてきました。欧米からは、日本車は高品質だが安価で大衆向けと認識されていたのです。そうした認識を覆すため、1980年代後半、日本を代表する3社の自動車メーカーがそれぞれプレミアムセグメントの世界展開に打って出ました。それがホンダの「アキュラ」、日産の「インフィニティ」、そしてトヨタの「レクサス」です。

今日において、レクサスはこれら日本発の3ブランドの中では最も成功している存在といえるでしょう。1989年にアメリカでの展開を開始したレクサスは、ガラパゴス市場といわれる同国の高級車市場で徐々にその存在感を高め、今ではベンツ・BMWと並ぶ高級車ブランドの「ビッグスリー」と呼ばれるまでになりました。2005年には日本への凱旋帰国を果たし、その後10年間で国内での知名度も一気に向上させています。

しかし、高級車の本場ともいえるヨーロッパでは、レクサスの名はまだまだ知られていないのが実情です。アメリカだけでなくヨーロッパ市場で評価されなければ、世界を代表する高級車ブランドの仲間入りは出来ません。レクサスは、世界的には未だ、多くの先発競合に挑みかかる新参ブランドという立場なのです。

レクサスが選んだ戦い

トヨタの現社長であり、自他ともに認めるクルマ好きでもある豊田章男氏は、「レクサスを変えなければならない」という号令を発しています。

レクサスの世界販売台数は、2015年度で約65万台。ドイツ御三家と呼ばれるメルセデス・ベンツ、BMW、アウディらの3分の1でしかありません。また、レクサスは世界65ヶ国で販売されているにも関わらず、世界販売台数の約55%をアメリカでの売上が占めており、実質的にはアメリカンブランドという位置から脱出できていません。章男氏はこの状況を座視することを良しとせず、レクサスを世界に冠たるブランドにするために改革の号令を発したのです。

現在のレクサスは、アメリカ市場で高級車ブランドの一角に堂々食い込んだという成功と、その他の世界市場では未だブランド認知を確立できていないという失敗の両側面を併せ持つブランドです。今後の四半世紀においてレクサスが選びうる「生き残り方」には三通りが考えられます。一つ目は、アメリカ主体のブランドと割り切り、他の地域での展開はほどほどで良しとする生き方。二つ目は、各地域の市場のニーズに合わせた車を作り、どの地域でも受け入れられることを目指す生き方。そして三つ目は、レクサスのブランド・アイデンティティを強固に確立し、全世界に認めさせるという生き方です。

この中で最も手堅いのは一番目の戦略でしょう。二番目の戦略は本来トヨタが得意としてきた手法ですが、販売台数の多い安価モデルならともかく、台数の少ないプレミアムセグメントではコストがかかりすぎて現実的ではありません。三番目は、実現できれば理想的ではありますが、多くの困難が伴う道です。アメリカを含め全世界の顧客が、自分の好みやライフスタイルに沿った選択としてレクサスを選ぶのではなく、レクサスというブランドの世界観や哲学に共感して「購入したい」と思ってくれるような存在になるということです。あらゆるブランドが目標とする地点といえますが、これがもし上手く行かなければ、成功しているアメリカ市場においてさえ評判を落としてしまう可能性もあります。

しかし、創業者一族の出である章男氏は、躊躇いなく三番目の道を選択しました。レクサスに「本物を知る顧客が最後に行き着くクルマであってほしい」との想いを込め、世界中の関係者全員に改革を訴える檄を飛ばしたのです。こうして、レクサスの新たな挑戦は始まりました。

次回以降の記事では、レクサスの具体的なブランディング戦略について、リーダーシップやデザインなど複数の観点から触れていきます。